38.次の段階へ
鉱石を見つけると、町は一斉に沸いた。この瞬間を待ち望んでいた鉱員たちは心の底から喜びあい、家族はようやく念願が叶ったと涙を拭く。
町は息を吹き返した。ここまでくれば、私の出る幕はない。後のことを町長に任せ、久しぶりに領館へと戻ってきた。
だけど、私は休んでなんかいられない。ようやく、鉱石を見つけたのだから、次の段階に進まなくては。
事務室に久しぶりに四人で集まり、まずは報告会をする。
「まさか……本当に鉱石を見つけるとは。これで町が救われますね!」
領館に残っていたゼナが私たちの報告を受けて、とても喜んで声を上げた。
「まずは第一段階突破よ。今、鉱員たちが坑道を広げて、鉱石を掘っている。その内、大量の鉱石が手に入るわ」
「もう、その段階に移っているのですね。では、次は製鉄所を動かす時ですね」
「えぇ、そうなの。鉱石を取った後は加工よね。それで、製鉄所ってどこにあるのかしら」
『製鉄所なら、あの町の傍にありましたよ』
「えっ、そうなの? よく見てたわね」
ということは、あの町で採掘と製鉄を担っていたってことになるわね。じゃあ、あの町に製鉄所の工員がいたってこと? そんな人……いたかしら?
「叡智、製鉄所の工員らしき人はいた?」
『いました。鉱員の中に明らかに体格が違う人たちがいました。おそらく、その人達が製鉄所の工員でしょう』
「なるほど……。製鉄所が動いていなかったから、鉱員として働いていたのね」
そういえば、鉱員の数が増えていた年があったはず。きっと、製鉄所の仕事がなくなって、今度は鉱員として雇い直したってところね。
『ですが、製鉄所で働いていたと見られる人員は少ないです。あの規模の製鉄所を動かすには、もっと人手が必要なはずです』
「どうしてかしら? 工員から鉱員になって、体が鍛えられて立派な鉱員になっちゃったって事はないかしらね」
『その可能性はありますが、元工員の今の姿と比べると、鉱員と遜色ない体つきになる可能性は低いです』
「じゃあ、製鉄所が閉められた時に工員たちは町に留まらずに出て行った可能性があるってこと?」
『その可能性は高いでしょう』
じゃあ、製鉄所を動かすための人員が足りないって事よね。そっちの方も手配しておかないと。
「よし、分かったわ。ハイドは製鉄所の動かすための物資の補給の手配を、ガイは製鉄所で新たに働いてくれる人の手配をお願い」
「分かった。じゃあ、昔の資料を読んで適切な補給を見定めるよ」
「今、町には職を失った奴らが沢山いる。そいつらがこの町から逃げる前に就職させてやるぜ」
二人ともやる気を見せてくれた。これなら頼りになる。
「ゼナの方はどう?」
「今、役場と税について調整しているところです。いやはや、税を下げると言ったら役場から反発を受けて大変でした」
「そうよね……。税が十分に入ってこなかったら、自分たちの給金が払われないってことになりかねないから」
「気持ちは分かります。ですが、異常に税が上がったことは事実。正常に戻す必要があります。もう少し時間を下されば、普通の税に戻してみせましょう」
「頼もしい言葉だわ。ゼナ、よろしくお願いね」
税の方もゼナに任せておけば、普通に戻りそう。叡智が見つけた人材はいつも優秀で助かるわ。これだから、私は自分の事に集中できる。
「じゃあ、各々動き出しましょう」
私の言葉に三人は強く頷いた。さぁ、次の段階に進むわよ!
◇
その後、私はドリスに会いに行った。製鉄所で働く工員を集めてもらうために。
「ようこそ、いらっしゃいました。領主様は身軽でいらっしゃいますね」
「そうじゃないと、今はやっていけないでしょ?」
「確かに。それで、今日の用件はなんですか?」
「ドリスに聞きたいんだけど、鉱員の中に製鉄所で働いていた工員はいる?」
「はい、おります。製鉄所が閉められた時に働く場所が無いと言って引き取ったのです」
やはり、叡智が言っていたことは当たっていた。
「無事に鉱石も見つかったし、製鉄所を動かそうと思うの。元工員を製鉄所に戻してもいいかしら?」
「もちろん、大丈夫です。その方が喜ぶでしょう」
「じゃあ、明日にでも製鉄所の工員に戻しましょう」
これで製鉄所に工員が戻って来る。だけど、それだと人数が足りない。ドリスはその原因を知っているのだろうか?
「ねぇ、ドリス。確か、製鉄所の工員は全員鉱員にしたって訳じゃないでしょ?」
「よく、お気づきになりましたね。えぇ、そうなんです。全ての工員を鉱員にはしていません」
「それは、どうして?」
「この町を去って行ったからです」
予想はしていたけれど、そういう選択肢もあるわよね。
「どうして、この町を去ってしまったの?」
「それは他の町でも働ける職でもあるからです。その人達は特別な職についていました」
「特別な職?」
「魔鉄を作る職人です」
この町の特産とも言える魔鉄を作る職人が……流出した?




