36.共同作業
無事に鉱員たちを救出した日、みんなで喜びあいながら町へと帰った。だけど、私にはまだやるべきことが残っている。
ドリスに新しい坑道を掘る協力を呼びかけることだった。その話をするとドリスは快諾し、翌日から新しい坑道を掘る決断をしてくれる。
今回の崩落で今まで使っていた坑道を諦める決心が付いたみたいだ。あのまま、また同じ坑道を使うってなったらどうしようかと思ったわ。
でも、これで私の計画通りに事を進める事が出来る。私は今掘っている坑道の事を話、手伝ってくれるようにお願いした。すると、ドリスは快諾してすぐに鉱員たちに周知してくれた。
そして、私たちは早速、その翌日には動き始めた。
◇
「ここが私たちが掘っていた坑道よ」
ドリスや鉱員たちを坑道に呼び寄せた。
「穴を掘っただけですか。これは危険ですね。早速持ってきた木で坑木を組みます。おい、作業を始めるぞ」
私の掘った穴を見て、眉を顰めたドリスはすぐに指示を出す。すると、後ろに控えていた鉱員たちが木材を持ち寄り、早速作業を始めた。
「ありがとう、助かったわ。流石にこれじゃあ、危険よね」
「ですね。崩落を経験した後だから余計に気になってしまいます。このまま作業をしてもいいですか?」
「もちろん、いいわよ。じゃあ、私たちは穴を掘る続きをしてくるわ」
「穴掘りなら、鉱員の手を向けますが」
「私が始めた事だから、ちゃんと鉱石が見つかるまで自分の手で掘り進めたいのよ」
「そうですか。じゃあ、余分な石を撤去するのに鉱員を派遣します」
「それは、助かるわ」
話が決まり、私たちは坑道の奥へと移動をした。
「さて、飽きたとは思うけど……最後のひと踏ん張りよ。叡智、あと何メートルで鉱石に辿り着ける?」
『残り二十三メートルというところです』
「それくらいなら、すぐ掘れるわ! じゃあ、始めるわよ」
私の声にハイドとガイは頷き、私のフォローに回った。そして、私たちは地道な穴掘りを続けていった。
◇
今までは三人で作業していたけれど、今回から鉱員たちも協力してくれている。そのお陰か、作業は驚くほど早く進んだ。
『あと五メートル』
勝手にカウントダウンを始めた叡智。それで、私のやる気を上げているつもりなんだろうけど……お陰様でやる気が上がっているわ。
あと少しという所まで来て、魔法を発動する手を強めて石を削っていく。あともう少し……期待がどんどん膨らんでいく。
『あと一メートル』
もう少し! ドキドキしながら石を削っていくと、ガラリと前面の石が崩れた。その先には赤黒い石と緑色の石が現れた。これは見たことがある!
「鉄鉱石と魔石よ!」
「本当だ!」
「とうとうか!」
とうとう現れた鉄鉱石と魔石に歓喜した。後ろにいた鉱員たちにその壁を見せてみると、鉱員たちは驚いた声を上げる。
「これは……鉄鉱石と魔石!」
「本当に出てくるなんて……!」
「こうしちゃいられない! 町長を呼んでくるんだ!」
鉱員たちは慌てて坑道の外へと向かった。しばらく待っていると、町長たちが大慌てで戻って来る。その町長は一面の壁を見て、信じられないような顔をした。
「これは……鉄鉱石と魔石!」
「ほら、本当に出たでしょ?」
「……凄いですね。見つけるのには相当な運がなければ無理なのに……」
「運なんて必要ないわよ。私には叡智がいるからね」
普通なら探すのは大変だっただろう。だけど、私には叡智がいる。叡智の能力を使えれば、鉱石を見つけるのは簡単に出来てしまうのだから。
だけど、ドリスの顔はまだ険しい。
「ですが、この鉱脈がどれだけ続いているか分かりません。とにかく、掘り進めて確認を……」
「そんなことしなくても平気よ。叡智、この鉱脈は大きいんでしょ?」
『はい、とても大きな鉱脈です。辺りを掘り進めれば、必ず鉱石が現れるでしょう。全てを掘り進めるためには、千年でも足りません』
「千年掘っても尽きないって」
「し、信じても?」
「もちろん。嘘はつかないわ」
叡智のいうことが絶対だと信じている私と最近叡智の事を知ったばかりのドリス。二人には叡智を信じる差は生じているが、少なくとも私の言葉は信じてくれるだろう。
難しい顔をしていたドリスだったが、途端に表情を緩め、軽く頭を下げてきた。
「ありがとうございます。これで、子孫共々この地で生きていけます」
「あなたたちの生きる道を示せて良かったわ。これで、みんな安心して暮せるわね」
「はい……本当にありがとうございます。このことを、他のみんなにも知らせましょう! さぁ!」
「それは楽しそうね」
町長を先頭に坑道の外へと向かっていくと、働いていた鉱員たちを一度外に出した。事情を知らない鉱員たちは不思議そうな顔をして町長の言葉を待った。
「聞いてくれ、鉄鉱石と魔石が見つかった!」
その言葉に鉱員たちはしんと静まった後、熱狂的な歓声が響き渡った。念願の鉱石の発見、一体どれだけ心待ちにしていただろうか? その気持ちが痛いほど伝わって来る。
「しかも、かなりの大きな鉱脈みたいで、千年あっても掘りつくせないみたいだ。だから、俺たちはここでずっと生きていける」
「それは、本当か!? 嘘じゃないだろうな!」
「本当だ! 領主様に備わっている叡智様の言葉だ、偽りはない」
「だったら……これからは今までのように悩まなくてもいいのか? 本当に……本当に!」
「あぁ、もう悩まなくてもいいんだ。ずっと、ここで生きていける」
町長の言葉に鉱員たちは熱狂した後、感動して泣く人まで出てくる。その姿を見て、頑張って鉱石を見つけたかいがあったというものだ。
「これも全て領主様たちのお陰だ。みんな、心から感謝をするように」
「領主様方! 本当にありがとうございます! こんなの夢みたいでさぁ!」
「これからもここで生きていけると聞き、本当に嬉しく思います!」
「鉱脈を見つけてくださって、ありがとうございます!」
鉱員たちはあっという間に私たちを取り囲み、感謝の言葉をかけてきた。その熱い言葉に、私たちの苦労が報われた気がした。
『これで第一段階突破です』
「えぇ、これでようやく先に進めるわ」
だけど、私たちはまだ立ち止まることはしない。ようやく、町を復興する足がかりが出来たところだ。これから、さらに違った努力をしなくてはいけない。
不思議と悲観する心はない。この難関を突破したから、きっと次の難関も突破できるだろう。その希望で満ち溢れていた。




