29.採掘開始
今日から採掘を開始だ。出来るだけ採掘に時間を掛けたい私たちは、この町にある領主が泊まる館に泊まり込みをすることになった。
「凄く汚れていますね。これは仕事のしがいがありそうです」
「調理場が気になる。俺は一足先に調理場に行くよ」
その館にセリナとタナトスを連れていくと、二人はやる気のある目をして早速仕事に取り掛かった。ちなみに領館の食事はタナトスさんの奥さんが作ってくれることになっている。
これで採掘に集中できる環境が整った。あとは実行あるのみだ。
◇
「さぁ、昨日大きな鉱脈を見つけた場所に来たわよ」
ようやく、昨日の場所に辿り着いた。
「ねぇ、叡智。どれくらい掘れば、鉱石が出てくるの?」
『ここから378メートル真っすぐに掘っていけば、鉱脈にぶつかるはずです』
「結構掘らないといけないのね。もっと近い所はない?」
『でも、ここが一番近いです』
「そう。なら、ここしかないわね」
長く掘らないと鉱脈が出てこないようだ。だけど、鉱脈があるって分かっているんだから、やるしかない。私は岩肌の前に立った。そう、採掘は私の仕事だ。
「本当に大丈夫なの? 魔法で岩肌を砕きながら進むなんて……」
「そんな仕事、俺らに任せておけばいいのに」
「二人に任せるよりも、三人で作業したほうがいいでしょ? それに、二人だってつるはしを使って岩を削るのは大変よ。だったら、ここは魔法が使える人が採掘しないと」
二人がつるはしを持って岩を削るよりも、私が魔法を使って岩を削ったほうが速い。これは適性な作業分担だ。
「私が岩を削って、二人が削った石を回収していく。このやり方がいいと思うわ」
「レティシア様の手を煩わせることになるから、ちょっと気が引けるけれど……早くこの事態を収拾したいしね」
「全力でやるつもりなら、俺たちも全力で事に当たろう」
「そうそう、その意気。じゃあ、私の爆発の魔法で一気に岩を削っていくわよ!」
『待ってください、爆発は危険です』
腕まくりをして岩肌に手を向けた時、叡智が待ったをかけてきた。
『爆発の魔法を使うと、岩肌に余計な亀裂を生んでしまいます。そのせいで崩落する危険もあるでしょう』
「小さな爆発でもダメ?」
『いつどこで亀裂が入るか分かりませんから、違う魔法を使いましょう。確か、レティシアの風魔法は岩をも切り裂く力があったはずです。そちらを使いましょう』
「一気に進めたかったのに……」
『安全が第一です』
爆発を起こして一気に掘り進めることが出来ればよかったのに。叡智って細かい事を気にするんだから。でも、穴を掘っている時に崩落したら大変だからね。ここは大人しく従っておきましょう。
改めて岩肌に手を向けると、意識を集中する。岩をも切り裂く風の魔法。しっかりとイメージして魔法を発動させる。
すると、手から鋭い風が巻き起こり、それは岩肌にぶつかった。固い岩肌はそれだけで切り刻まれ、小さな石片になって地面に転がっていく。
「凄い! 本当に岩が削れていっている!」
「俺たちがつるはしで岩を砕くよりも速い!」
「魔法ってすげー!」
私がどんどん岩を削り取っていくと、後ろから三人が驚く声が聞こえてくる。固い岩がまるで砂山のように簡単に削れていく様子は気持ちがいい。でも、本当は爆発させたかったんだけどね。
「これで分かったでしょ。私が魔法で削っていくから、二人は削れた石を回収していって」
「分かった。これは早くしないと、石が溜まってきちゃうね」
「ようやく、俺たちの出番か。全力で当たらせてもらう」
二人はやる気を滲ませて、削れていった石を回収し始めた。私は集中して岩肌を削っていく。
◇
「ふー。残りは何メートルかしら?」
『目標地点まで残り173メートルです』
「そう、ようやく半分までいったのね」
あれから数日、崩落しないように慎重に岩肌を削っていった。叡智はうるさく指示をしてくるから、私はそれに素直に従い岩肌を削る。爆発の方が速いと思うけれど、それだと後で鉱石を掘る人達が危険にさらされるらしい。
その話を聞いて、爆発をさせる気はなくなった。だから、こうして黙々と岩肌を削る作業が出来る。
「それにしても、岩を削るのがこんなに大変だったとは思わなかったわ。この作業を続けている鉱員は凄いわね」
「そうさ! お父さんたちはとても凄いんだ! もう魔石や鉄が採れなくなった場所から新しく見つけていったんだから」
「同じ場所から見つけたの。やっぱり、元々あった所には鉱石が眠っているのね」
『……それは危険ですね』
その時、叡智が気になる話をし始めた。
『鉱石を求めて、闇雲に鉱石を探している可能性があります。このままだと、過剰に穴を開けてすぎて崩落を誘発する危険があります。一度、現場を見させてください』
「崩落の危険? それは大変じゃない! ねぇ、町長たちが掘っている場所を案内してくれない?」
「えっ、ダメだよ! 領主様は入れないってお父さんが言っていたから」
「みんなの命に関わる事なの。お願い、奥まで行かないから」
「うぅ……」
私が必死になってお願いすると、少年は悩んだように俯いた。しばらく、悩んでいると少年が顔を上げる。
「……少しだけなら」
「ありがとう。早く現場を見にいくわよ」
少年の許しを得て、私たちは掘っていた穴を飛び出して、町長たちが掘っている場所へと急いだ。




