28.大きな鉱脈探し
山脈をゆっくりと歩き続けた。時々立ち止まり、叡智に聞いてみる。
「この辺りはどう?」
『丁度いい地層ではありますね。その中に小さな鉱床はありますが、大きなものはないみたいです』
「なら、この辺じゃないわね。どんどん、進んでいくわよ」
叡智の検索機能で山脈内を検索して鉱床を探していく。それなりに広範囲に検索は出来るが、起点が私なので移動しなければならない部分が多い。
だけど、動くのには慣れている。どんどん山脈を歩き回り、採鉱するのに適した場所を探していく。
「そんなことしても魔石や鉄は見つからないよ。お父さんみたいに、掘っていかなきゃダメだよ」
「掘らなくても見つけられる能力があるのよ。さっき言った、叡智の能力を使っているの」
「ふーん。俺、まだ信じてないからね。見えなくて聞こえない存在なんて、妄想じゃん」
「くっ……あなたも頑固ね。でも、最後に笑うのは私よ。大きな鉱脈を見つけて、あなたたちを驚かせてみせるわ」
少年はまだ信じてくれないけれど、私は叡智の能力を信じている。過去に色んな難題をクリアしてきた叡智。今回も難題を軽くクリアしてやるわ!
それから、私たちは山脈を歩き回った。細い山道を通ったり、急な斜面を登ったり、足元がデコボコした所も通った。歩きづらい地面は次第に私たちの体力を削っていった。
初めは元気だった私たちも次第に口数が減っていく。それでも、検索する頻度は変えずに丁寧に探していった。
「この辺りはどう?」
『微弱な反応がありますが……小規模な鉱床です。実用には適しません』
「そう……」
私はため息をついた。何度目の落胆だろう。期待しては外れ、また進む。その繰り返しだ。それでも、私は顔を上げてどこかに必ずある大きな鉱脈を探していく。
「いたっ!」
その時、少年が地面に躓いて転んでしまった。
「大丈夫!?」
慌てて近寄って、その体を起こした。手のひらが少し剥けてしまったみたいだ。
「ごめんなさい。子供に無理をさせちゃったみたいね」
「見張り役なんだから気にしなくていいのに……。僕を置いて先に行ってもいいんだよ?」
「そんな事はしないわ。だって、一緒に行動しているんですもの。また歩けるように少し休憩しましょう」
「……今の領主様は優しいね。前の代官様は厳しかったのに」
私たちはその場に座り、休憩を始めた。すると、少年が話の続きをする。
「前の代官はとても厳しかったんだ。朝から晩まで働きづめで、ノルマをクリアしないと給金を下げるぞって脅されてたんだ」
「なんて人なの。そんな事になっていたの」
「魔石や鉄が採れなくなって、給金が減ったのに厳しさは前にも増して強くなった。お父さんもお母さんもみんな大変だった」
「無理強いをしていたのね。体を壊した人とかいなかった?」
「みんなで協力して、休憩しながらやってたからどうにかなっていたみたい。でも、ある時から仕事をしなくてもいいって言われたんだ。ただ、そこにいるだけでいいって」
急に仕事に厳しくなったり、急に仕事をさせなかったり。前の代官は行き当たりばったりなことをしていたらしい。
『おそらくですが。自領で鉱石が採れるという工作のために、鉱員を減らさなかったのでしょう』
「それから給金を減らされて、食べる物に困り始めた。代官は町を見捨てたんだってみんなが言っていた。だから、自分たちの手で解決しようって決めたんだ」
「だから、畑を始めたり、鉱脈を探していたのね」
「うん。お母さんたちは畑仕事をして、食べる物を増やして。お父さんたちは鉱脈を探しを始めた。自分たちの手で鉱脈を見つけた暁には、それを交渉の材料にして今よりもっといい生活環境を求めるつもりだったんだよ」
なるほど、だから頑なに自分たちで鉱脈を見つけることに躍起になっていたんだ。それで見つかればいいのだけれど、現実問題として見つかっていない。
やはり、自分たちが見つけるしかない。
「だから、本当は領主様が見つけるのは止めて欲しい」
そう思ったばかりなのに、少年が懇願する目で見つめてくる。だけど、この少年の願いは鉱脈を見つけることじゃなく、よりいい生活環境を欲した町長たちの思いが成し遂げられることだ。
「私ならあなたたちに厳しい仕事や生活を課すことはしないわ。だから、安心して。私たちが鉱脈を見つけて、町を助けるから」
「……本当に? 領主様が鉱脈を見つけても、お父さんたちを厳しくしない?」
「もちろん、約束するわ」
「……そう。なら、領主様も鉱脈探しをしてもいいよ! でも、先に見つけるのはお父さんたちなんだからね!」
「ふふっ、言ったわね。じゃあ、どちらが見つけられるか勝負よ!」
雰囲気が明るくなったところで、私は立ち上がった。この町のためにも、早く鉱脈を見つけないと!
◇
休憩を終えた私たちはまた歩き始めた。様々な地面や岩肌を検索しては、次の場所へと移っていく。すると、日が傾き始めた。
「レティシア様。そろそろ、戻らないと……」
「また明日探しに来よう」
「……もう少しだけ進ませて」
ハイドとガイの言葉に焦りが強くなる。どうにかして、早く見つけたい。その気持ちが強くなっていた。
「叡智、近くに何かない?」
『少々お待ちください。……前方左手の斜面の下部、斜面構造に不自然な地層のずれを確認。通常の侵食では起こりえない層構造です。人工的、あるいは鉱脈の圧力による可能性があります』
「それって……」
『鉱脈の存在が濃厚です』
私は息を呑んだ。
「その浸食の規模は!?」
『検索します。……検索終了しました。数キロメートルに渡って続いているようです。大規模な鉱脈の可能性があります』
「ったぁぁっ! みんな、大きな鉱脈を見つけたわよ!」
叡智の言葉に私は歓喜の声を上げた。
「ほ、本当に?」
「ただ、歩いていただけなのに……」
「何もしてないのに、分かるの?」
私の喜びとは裏腹に三人は懐疑的だ。叡智の言葉を信じているのは私だけのようで、三人はすぐには信じられないと言った様子だ。
この喜びを分かち合えない寂しさと叡智の言葉を信じてくれない悔しさがある。だけど、鉱脈をこの目で見ると、本当に叡智の能力を信じてくれるだろう。
「大丈夫、ここに鉱脈があるわ。私を信じて、明日から採掘を開始するわよ!」




