27.叡智の認知2
「私たちだけで大きな鉱脈を掴み取るわよ!」
ハイドとガイに採掘に必要な道具を持たせ、私たちは山を歩いていた。
「本当に見つける事が出来るの? 叡智様の事は良く知らないから、本当に出来るのか不安だよ」
「大丈夫! 叡智には検索機能があるからね、それを使えば大きな鉱脈を見つけられるはず!」
「聞けば聞くほど、不思議な力があるんだな」
「ふっふっふっ、叡智ってば本当に色んな場面で頼りになるんだからね。私が使っていた物を無くした時、すぐに見つけてくれたんだから!」
そう、叡智は何かと便利なのだ。豊富な知識があるだけじゃなくて、人を鑑定する力もあるし、物を探すための検索機能もある。今まで何度も助けられてきたから、その能力がどんなものか知っている。
『使った物を無くした時はその時の記憶がありましたから、検索機能を使わずに探し出せますよ』
「検索機能が使えなくたって、叡智は優秀だから何でも出来るのよ! ちょっと、人との交流が出来ないだけだけど」
「まぁ……叡智様の声がレティシア様にしか聞こえないから、交流はほとんどないんじゃ……」
「叡智様の交流ってほとんどレティシア様だけだからな。他の人で経験することが出来なかったから、その部分が劣っているんじゃないか」
「劣っているは失礼なんじゃない? ちょっと、苦手なだけよ」
叡智が劣っている訳がない! どんなに優秀な人でも苦手な部分があるし、普通の事だわ。
「叡智様って何?」
すると、見張りに着いてきていたドリスの子供が聞いてきた。
「叡智っていうのはね、目に見えない存在で色んな知識や力のあるの」
「目に見えないのに存在しているの?」
「そう、声がね私の頭に届くのよ」
「目に見えない……声が届く……まさか幽霊!?」
「幽霊じゃないわよ!」
「わぁ……領主様ってそんな存在を信じているの?」
子供が引き気味に私を見てくる。くっ……その眼差し、懐かしい。昔、叡智と喋っているとそんな目で見られていたなぁ。
みんなに叡智を認識してくれなくて、悔しい!
「ほら、叡智も何か言ってやりなさい!」
『いえ、ですから……私の声は届かないのですから、何を言っても』
「そこで諦めるなー!」
どうして、叡智はこうも消極的なのか。もっと前に出たら、しっかりと存在を認知してくれると思うのに。
「うわっ、誰かと喋っている? 領主様、頭大丈夫?」
「平常よ、平常! 世の中にはね、普通では計れない物事があるのよ。そうよね、叡智!」
『……』
「叡智ー!」
子供が引き気味で、叡智が消極的だけど私は挫けない!
「叡智様の知識があれば、さっきの会話も上手に誘導出来たんじゃないの」
「それがね、叡智は知識はあっても人との交流がまるでダメなの。だから、交渉事には出てこないのよ」
「レティシア様が万能っていうから、何でも出来ると思ったが……そうでもないんだな」
「むっ! 叡智は凄いんだから! 二人だって、決算書の時にその力を知ったでしょ?」
「あれは凄かったよね。書類に一切の不備がなかったんだから」
「短時間であれほどの計算が出来るのは、人並じゃ無理だったな」
「ほら、そうでしょ?」
二人はあの時の能力を認めてくれている。これって、もう叡智を認知してくれたって事でいいんじゃない?
「それに、あなたたちを見つけた時も叡智の能力を使ったのよ。人の能力や経歴を鑑定出来る力があったから、あなたたちが官吏の資格を持っている事を知れたんだから」
「そういえば、そうだったね。あれは凄い能力だよ。ただ見るだけでその人の事が分かっちゃうんだから」
「人知を超えた力だったな。確かに、叡智は存在しているのかもしれない」
そうそう、叡智の力を知れば認知してもらえる。昔もそうだった。叡智と出会って、私にしか存在を認知出来なかったから、他の人達に認知してもらうのにどれだけ時間がかかったか。
「叡智を認知してもらうのに、昔は結構大変だったんだから。私が知らない知識を披露したり、練習していない楽器を鳴らしてみたり、素晴らしい武術のかたを披露したり。それはもう、色んな事をやったわ」
『懐かしいですね。あの頃のレティシアは私を認知させようと、色んな知識を吸収しては披露してました。でも、そんな事があったから、どんどん無理難題を求められてしまいましたが』
「へー、叡智を兼ね備えた才媛の姫ってそういう環境だったから、そう言われたんだね」
「そうよ。小さな頃から色んな事に手を付けては、完璧にこなしてきたからそう言われたの」
「子供の時から……。王女様っていのは大変なんだな」
私が叡智を兼ね備えた才媛の姫と言われていたのは、そういう過去があったからだ。叡智のために奮闘していたら、色んな技術や知識を身に付けた。大変だったけど、それなりに楽しかったわね。
「だから、ここでも叡智の能力を見せつけて、叡智を認知させてあげるんだから。叡智、頑張りましょう?」
『最善を尽くします』
「ほら、叡智も頑張るって言ってくれてる!」
「げっ……やっぱり、領主様は変だ。声なんて聞こえないぞ!」
「あなたに聞こえなくても、私には聞こえているんですー」
「いや、絶対に変だ! 見えなくて聞こえないものは信じないぞ!」
「まだ、認めないというのね。だったら、認めてもらえるように結果を出してあげる。大きな鉱脈を見つけて、あっと驚かせて見せるんだから!」
私たちが大きな鉱脈を見つければ、叡智をもっと認知してくれる。ここが頑張り時ね!




