26.鉱山
朝一で領館を出て、町へと辿り着いた。畑に移動すると、そこでは女性と子供たちが畑仕事に精を出していた。
その中で町長の奥さんを見つけて、声を掛ける。
「奥さん、おはよう。今日も来たわ」
「本当に来たのね。じゃあ、案内して上げなさい」
「はーい」
奥さんが十代前半の子供に声を掛けると、子供は手を止めて私たちの前に来た。
「じゃあ、鉱山まで案内するよ。来て」
どうやら、道案内は子供がしてくれるらしい。ということは、町長や男性たちはもう鉱山にいるということなのだろうか?
考えても埒が明かない。今、鉱山がどうなっているのか、この目で見てやるわ。
◇
町を抜け、山に入り、山道を歩いていく。
「ドリスは何年もかけて探しているって言ってたわよね。ということは、魔石と鉄を探しているってことかしら?」
「あの口ぶりなら、そういう意味があると思うよ」
「じゃあ、町の男たちはずっと鉱山に入っていたのか」
「昨日見た町長や他の男性たちの体つき、しっかりしていたわ。あれは、労働を続けていた証よ」
魔石と鉄が採れなくなったから、てっきり体を動かしていないものかと思っていた。だけど、実際は魔石と鉄を求めて独自に採鉱していた。
そのお陰で体つきはがっしりしていて、採鉱をお願いするのに適した体つきになっている。これは、早く魔石と鉄が見つかるかもしれない。
すると、子供が話に入ってきた。
「お父さんたちはずっと鉱山に籠って採掘をしているんだ。自分たちにはそれしか出来ないって、毎日諦めずに山に行っているよ」
「そう……。現場の人間は諦めていなかったのね。それはとても頼もしい限りだわ」
「そうさ! お父さんが諦めなければ、また魔石と鉄が採れると思う。また活気のある町に戻るんだ!」
子供は嬉しそうに話してくれて、私も嬉しくなった。
「現場が希望を持って動いてくれているのは嬉しい誤算だったわ」
「鉱員の心は強いね」
「頼もしい奴らで本当に良かったぜ」
彼らが諦めずにいてくれることで、魔石と鉄を採掘出来る希望が見えてきた。もしこれで、彼らが何もしてこなかったら、きっと採掘は困難を極めていただろう。
あとは、叡智と協力して魔石と鉄の在りかが分かれば、この領は復活する。私たちの心に希望の明かりが灯った。
そうして、話しながら山を登っていくと採掘の現場へと辿り着いた。山肌には沢山の穴が掘られていて、その中から採掘しているであろう音が響いてきた。
その中を歩いていくと、採掘の入口で立ち話をしているドリスを見つける。
「お父さん、連れてきたよ!」
「おお、ありがとよ」
子供がドリスに駆け寄ると、ドリスは笑顔で子供の頭を撫でた。
「本当に来たんだな」
「もちろん、この領に関わる重要な事だからね」
私たちの方を向くと、途端に真剣な顔つきになった。
「その顔だと、話を聞いたみたいだな」
「えぇ。良く今まで頑張ってきてくれたわね。あなたたちが長年努力をしてきた事は分かったわ」
「俺たちは鉱員、掘る事しか能がねぇ人間だ。だから、それ以外の生き方を知らない。この道でしか、飯が食えないんだ」
ドリスたちは鉱員であることを誇りに思っているみたいだ。その道に特化した人がこんなに沢山いるなんて、とても心強い。
「ここでしか生きていけねぇんなら、鉱石を見つけないといけない。俺たちは俺たちのために、採掘の手を止めたりはしなかった。ついてきな」
ドリスと近くにいた男性たちがある方向に向かって歩いていく。私たちはその後を追って行った。
すると、広場に出た。その広場の隅には幾つかの山が築かれていた。
「あれは?」
「あれは、ここで掘られた鉄鉱石だ」
「嘘……まだこんなに採れていたの?」
目の前に現れたのは鉄鉱石の山。完全に採れないと思っていたのに、まだこんなに採れていたとは知らなかった。
「製鉄や魔鉄にして流通させるには量は少ないが、この場所ではまだ採れるんだ」
「そう……まだ採れていたのね。そういえば、魔石は? あの隣にある、青い透明な石がそうなの?」
「青い透明な石は魔石じゃない。あれは、触れた物を少し軽くさせる力のある不思議な石だ。確か、この領独自のお土産にもなっていると聞いたことがある。お土産程度にしかならない、どうでもいい石だ。魔石は緑色の石があるだろう、それだ」
教えられた山を見ると、そこには鉄鉱石と比べて少ないが魔石も採れているようだった。
「ここにあるのは一年で採れた量だ」
「一年でこの量……。鉱山にしては少ないわね」
「そうさ。完全に採れなくなったわけじゃないが、製品にするには数が足りていないだろう。だから、前の代官は諦めたんだよ」
実際に現場を確認すると、知らない事実が浮かび上がってくる。魔石と鉄は完全に採れていない訳ではなく、少量だが採れていた。だけど、その量では製品にするには足りなかった。
「今は小さな鉱脈しか見つけられない。だが、大きな鉱脈を見つけるために鉱員たちは毎日働いている。これが現場の真実だ」
「だったら、叡智の能力で大きな鉱脈を見つけて見せるわ! ぜひ、坑道を案内して!」
あとは大きな鉱脈を見つけるだけなのね! これで、大きな鉱脈を見つければこの領が救われる!
自信満々に訊ねると、ドリスたちは顔を見合わせて――笑った。
「お前が鉱脈を見つける? 何をふざけたことを!」
「無理に決まっているね」
「小さな鉱脈を見つけるだけでも難しいのに、今日鉱山に来たばかりの領主が見つけられるはずがない」
まるで、子供の冗談だと笑い合った。その反応が悔しくて、私は声を上げる。
「嘘じゃないわ! 本当にそういう事が出来るの!」
「信じられない。それに素人をそう簡単に坑道の中に入らせると思ったのか? 鉱山の事は他の誰よりも俺たちが良く知っている。お前たちの力は必要ない」
必死になって訴えたが、ドリスは聞く耳を持たなかった。
「分かったのなら、とっとと引き下がって」
ドリスたちは私たちを能なしだと引きはがそうとした。だけど、ここまで来て誰が引き下がるものですか!
「いいえ、引き下がらないわ。坑道に入らせてくれないなら、私が独自に鉱脈を見つけて見せるから」
「お前が? ……ふん、出来るもんならやってみな」
必ず、大きな鉱脈を見つけて見せる!




