13.領の実態
「ここがあなたたちが働く場所よ」
ゼナ、ハイド、ガイが事務室の中に入って来る。事務室はいくつかの机が並んでいて、この三人では使えきれないほどに並んでいる。その席の奥側には一番立派な机とイスがあった。
「私の席はあそこね」
「レティシア様もここで働くのですか? 他に執務室があるのでは?」
「私用の執務室はあるけれど、最初の内はみんなと一緒にいたほうが何かと便利じゃない」
自分の執務室に籠っても、分かるのは資料から得られた情報だけだ。今の私には圧倒的に情報が足りない。だから、みんなと会話を交わして少しでも多くの情報を手にしたい。
三人が座る席を決めると、事務室の端に設置してあるソファー席に誘導して、そこに座らせた。
「まずは情報交換をしましょう。って言っても、私はこの領の事を何も知らないの。妨害を受けて、知らされたのは領の名前だけだったわ」
「そんな事になっていたのですね。なら、この領が採鉱で成り立っていたことは知らないという事でしょうか?」
「その採鉱から取れる魔石と鉄を合わせた、魔鉄産業が盛んだったことも?」
「魔鉄から作られる製品で領が潤っていたこともか」
「どれも初耳ね。何も知らないから、この領について詳しい事を教えてくれないかしら」
三人にとっては当たり前の話でも私は何も知らない。まずはこの領の事を詳しく知らないといけないわ。
コホン、とゼナが咳ばらいをして話し始める。
「この領の主な産業は採鉱による鉱物資源です。領内にはゴルドーゼ山脈があり、そこから採掘をしております。産出する鉱石は魔石と鉄です」
「採鉱をしているなら、安定した収入が手に入るんじゃないかしら? なぜ、こんなに廃れてしまったの?」
「その理由は一つしかありません。魔石と鉄が採れなくなってしまったのです」
「鉱物資源が枯渇してしまったのね……」
この領は鉱物資源によって収入を得ていた。以前は安定して鉱物を産出していたみたいだが、今は産出していないみたいだ。
「当然、鉱物資源が採れなくなると収入がなくなります。それが十年近く前の出来事ですから、魔石や鉄が産出されずに時が経った我が領が廃れていったのです」
数年前に魔石と鉄が採れなくなって、領の収入源がなくなってしまった。そして、この鉱物資源がなくなって困るのは、他の産業だ。
「同じ場所から魔石と鉄が採れる所は他の領にはない、二つの鉱物が採れるのがこの領の最大の特徴だよ。そして、その二つを合わせて作られるのが魔鉄と呼ばれる、魔力を通す鉄の作成さ」
この世には魔石と呼ばれる、魔力を含んだ鉱物が存在する。その魔石は動力源に出来、様々な魔道具の動力源になっていた。
その魔石と鉄は熱を加える事で溶けだし、魔石と鉄は合わせる事が出来る。その二つを合わせると魔力を帯びる金属が出来る、それが魔鉄という素材だ。
「ランベルティ地方の魔鉄は品質が良くて、量が沢山作られる。だから、他の領に比べて安価で品質の良い魔鉄になるんだ。その魔鉄を求めて、他の領から買い入れの商人がひっきりなしに現れたんだよ。でも、魔石と鉄が採れなくなってからは……」
領内で二つの鉱物が採れる、しかもその二つが合わせると特別な金属になる。それはこの領にとって強みだっただろう。
だけど、鉱物が採れないと魔鉄も作れない。
「魔鉄は魔道具の基盤の配線の役割を担っている。魔石は魔道具と動力源に魔鉄は基盤の配線になる。ここには魔道具に必要な物が揃っているんだ」
「なら、魔道具を作る物が揃っているのね」
「領内で必要な物が揃えれば安価で魔道具を作ることが出来る。しかも、品質がいい魔鉄がある。ここには魔道具を作るのに、十分な下地が揃っているっていう訳だ」
領内で産出される魔石、作られる魔鉄。他領から必要な物を買い入れると余計な税や輸送料が発生するが、領内だとそれが発生しない。必然的にコストが安くなり、作られる魔道具は安価に出来るという事だ。
「フォリンダに魔道具店が多いのは、ここで魔道具を作ると他の領で作るより安価で作れる。そして、それを通常の料金で売ると……儲けが大きくなる」
「へー、そういうからくりがあったのね」
「利益が他の領で作るよりも多いと分かると、このフォリンダで作ろうと思うだろう。だから、フォリンダには魔道具店が多いんだ。でも、今じゃ魔石も採れない、魔鉄を作れないとなると……」
「魔道具を作る職人はフォリンダを出て行くのね」
だから、閉まっていた魔道具店が多かったということか。
「見えてきたわ。この領は採鉱が主な産業で、そこで産出される魔石と鉄。そして、魔石と鉄を使って作られる安価で品質の良い魔鉄がこの領の売りだった。一つの領で魔道具に必要な魔石と魔鉄が手に入るから、他の領で作るよりも安価で魔道具作りが出来る。この領は今まではそれで潤っていたっていう事ね」
領の全体像が見えてきた。大事なのは、全ての源である魔石と鉄が産出しなくなくなったことだ。そのせいで、魔鉄作りも魔道具作りも廃れてしまった。
領の収入源だった三つの産業が機能不全を起こし、財政破綻寸前まで追い込まれてしまったようだ。その理由を聞いて、町に活気がない理由が分かった。
じゃあ、次は実際の領地運営がどのように行われていたのか見て見よう。




