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浮気された聖女は幼馴染との切れない縁をなんとかしたい!  作者: gacchi(がっち)


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139/139

139.終わりから始まる

「次はどこにいく?」


地図を出そうとしているキリルの手を押さえ、出さなくていいと伝える。

探さなくても、次に行く場所はもう決めてあった。


「ううん、もうどこにも行かない。」


「え?」


後ろから私を抱え込んでいたキリルが、私の顔を覗き込んでくる。

いつも通りの穏やかな目が少しだけ心配そうなものに見える。

腕の力が緩んだすきにくるりと後ろを向いて、正面からキリルに抱き着いた。


「…ユウリ?どうした?」


「私ね、何か見つけられたら、いろんなことを知れたら、

 私じゃない私になるんだと思ってた。

 そうなるはずだった私だったのか、全然違う私だったのか、

 もうわからないけれど…私自身を探したかったんだと思う。」


「…三年間で何か変わった?」


「ううん。何も変わらなかった。

 何を見ても、何を知っても、私は私でしかない。

 全く同じではないとは思うけど、そんなに変わるものじゃないんだってわかった。」


「そうだね。ユウリは最初からずっとユウリだ。

 どんなことがあっても、芯の部分は変わりようがない。」


「うん…だから、安心した。

 きっと、私がこの世界に産まれてきていたとしても、何も変わらなかったと思う。

 同じように生きて、同じように感じて、キリルのことを好きになったと思う。

 小さいころの思い出が共有できないのはさみしいけど、これからでもいっぱい作ればいいよね。」



ずっと変わらないキリルの優しい目に私の姿が映ってる。

目立たないように茶色の髪と目になっているからか、まるで向こうの世界にいた頃の私のようだ。

もう平凡だとは思わないけれど、そこまで変わったとも思えなくなった。


あれも、あの頃の窮屈な私も、私だ。

今ならあれも同じ私だったと感じられる。

三年前も、今も。


私は私で、何かすごいことができるわけでも、すごくいい人なわけでもない。

美味しいものを食べるのが好きで、甘いお茶に癒されて、

人と話す時にちょっと緊張して、人前に出るのは苦手で。

柔らかいもの、ふわふわしたものになりたくて、

でもどちらかといえば硬くてまっすぐな性質で。


それでいい。

というよりも、そうでしかないことをやっと受け入れられた。


いつか変わったと思う時が来るかもしれないけど、

その時はその時で悩んで受け入れるしかないんだと思う。



「私は思った以上に小さな私だった。

 だけど、キリルと一緒にいたい。

 キリルのことが大好きなのは本当。

 三年も振り回して、待たせてごめんね。


 …キリル、私と結婚して、公爵領に帰ってくれますか?」


受け入れてくれると信じているけれど、やっぱり少し怖くて声が震える。

私からのプロポーズに、キリルが目を瞬かせた。

驚かせてしまったかもしれない。こんなに長い間待たせてしまっていたのだし。


少しだけ間を置いて、キリルが私の目の前に跪いた。


「ユウリ、もちろんだ。

 俺と結婚して、これからも一緒にいて欲しい。

 公爵領に、兄さんとミサトのところへ帰ろう?」


「うん!」


跪いているキリルの首に抱き着いたら、そのまま抱き上げられた。

急に高くなってふらついても、キリルがしっかり受け止めてくれる。


私が考えすぎて迷っている間、キリルはずっと見守っていてくれた。

本当は答えなんかないってわかっていたのかもしれないけれど、

私がやりたいようにさせてくれていた。

三年間のことが全く無駄だとは思っていない。

だけど、一番大事なことはずっとそばにあったと気が付いた。



「これからもよろしくね。キリル。」


「あぁ。」



まだ遠くで羊がめぇめぇ鳴いている。

雪が降る前に早くここを出よう。


みんなが待ってる場所へ帰るために。



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