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浮気された聖女は幼馴染との切れない縁をなんとかしたい!  作者: gacchi(がっち)


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136/139

136.贈与式

すべての聖女としての仕事が終わった後、四人で王宮の謁見室へと来ていた。

大きな扉が開かれて中に入ると、謁見室にいた全員が深く頭を下げる。

ざざっと礼をする時の服がすれる音が聞こえたほどだった。


「頭を上げていい。」


キリルが声をかけると、ゆっくりと頭をあげる。

そこには少し背が高くなって大人びた顔のハイドン王子がいた。

ハイドン王子は王太子としてこの場にたっている。


国王は夜会などでの失態で国王代理になっており、もう二度と私たちの前には顔を出せないらしい。

そのため、王太子のハイドン王子が代表で私たちを出迎えている。


「聖女様、神官隊長様のおかげでこの国、この世界は救われました。

 ルリネガラ次期国王として、感謝の意として聖爵位を捧げたく存じます。」


聖爵位とは、聖女と神官隊長の仕事が終わった時に受け取る爵位だという。

これはあくまで形だけのもので、特に仕事があるわけじゃないらしい。

身分としては王族と同等だが、国王の下につくわけでもない。

臣下になるわけでもないのに爵位が必要なのは、

こうでもしないと貴族たちが馬鹿なことをするからだと聞いた。


たとえば、聖女に嫁に来て欲しいとかだけじゃなく、

産まれた子供と婚約させろとか、無茶を言うことが無いように。

一生涯、王族や貴族の命令を聞く必要が無いように爵位を持つことになる。


これは一代限りの爵位で、私たちに子どもが産まれた場合は、

結婚相手の家に婿入りか嫁入りすることになるらしい。


そうすることで聖女や神官隊長の血は各貴族の家に伝わっていく。

もちろん、結婚相手は自由に選ぶことができる権利を持っていると聞いてほっとした。

政略結婚とかどう考えても無理だと思っていたら、歴代の聖女たちもそうだったからと。


聖爵位を示す水晶付きの手鏡を受け取ると、ハイドン王子がため息をつくのがわかった。

何か悩んでそうな顔に、ちょっとだけ心配になる。


まだ学園に通う学生なのに、王族がハイドン王子だけになってしまった。

第二王子だったダニエル王子は、王族から外されていた。

それだけなら母方の貴族を名乗れるのだが、母親は元王妃毒殺の罪で処刑されている。

生家の侯爵家も取りつぶされたということで、ダニエル王子は行方知らずらしい。


ちらっと近くにいるカインお兄ちゃんを見たら、向こうも私を見ていた。

やっぱりお兄ちゃんもハイドン王子のため息が気になったようだ。


「ハイドン…何か悩んでいるのか?」


他の貴族たちが少し離れているのを確認して、小声で聞いている。

ハイドン王子はカインお兄ちゃんと私を見て、ぼそりとつぶやいた。


「…お二人を見ていたら、王家の色を持たない私が国王になっていいのかと…。」


その言葉におもわずハイドン王子を見る。

銀色の髪と水色の瞳。

側妃だった母親は侯爵家だけど、この色は祖母の生家である公爵家の色だそう。

カインお兄ちゃんもダニエル王子も金髪碧眼だった。

元の色に戻った私も金髪碧眼。

なのに、三人とも王族から外れ、王家の色を持たないハイドン王子が王太子になっている。

…考えてみたら、ダニエル王子もハイドン王子も異母兄弟になるんだ。


カインお兄ちゃんと違って、あまり弟という感じはしないけれど、

未成年のハイドン王子にすべての責任を負わせるのはかわいそうになる。

だけど…他に国王になれる人っていないんだよね。

王位継承権を持っていたはずのカインお兄ちゃんもキリルも、

神官隊長になった時点で王政には関わってはいけなくなってしまった。


カインお兄ちゃんは少しだけ考えた後、

ハイドン王子の肩に手を置いて言い聞かせるように伝えた。


「ハイドン、王家の色を持っていたからといっていい国王になるとは限らない。

 それは父上を見て理解できただろう?」


「う…それは、はい。」


「大事なのは王家の色じゃない。

 この国を守ることを考えてくれる国王だ。

 お前なら大丈夫だと思っているよ。」


「…ありがとうございます。」


泣きそうになったハイドン王子が深く深く頭をさげた。

それに合わせるように周りの貴族たちも頭をさげる。


全員が頭を下げたら贈与式は終了だと言われていたから、

その状態のまま私たちは謁見室から出た。






「ハイドンにあんな風に思われていたとはな。」


「ハイドンは自分が国王になるとは思っていなかっただろう。

 だから、これまでは自分が王家の色じゃなくても気にしなかったんだと思う。

 急に王太子になることになって、初めて考えたんじゃないかな。

 自分が王太子になって、国王になるってことを。

 周りの見る目も変わっていっただろうしね…でも、ハイドンなら大丈夫だよ。」


「あぁ、そうだな。あいつなら大丈夫だろう。

 王家の色なんて…そのうち変わるだろうし。

 むしろ、あの王妃に振り回されていた父上を思い出さなくてすむんだ。

 王家の色じゃないほうが貴族たちもほっとするだろう。」


神官宮へと戻る道をのんびりと歩いて戻る。

キリルとカインお兄ちゃんが話しているのを聞きながら、美里と手をつないで歩く。


前後に隊員たちが護衛としてついているが、隊員たちがそばにいることにも慣れた。

遠征中ずっと守ってもらっていたから、仲間意識のようなものを感じる。


私たちが神官宮からいなくなったらどうするのかと思っていたら、

隊員たちは今後も神官宮に残って働くらしい。

しばらくは他国から神剣の要求があれば輸出しなければいけないし、

次の聖女を迎えるために次世代の隊員を迎える準備があるんだという。


ずっと一緒にいた隊員たちだけど、もうすぐ別れが近づいている。


爵位を受け取ったら、私たち四人はもう好きにしていいと言われていた。

カインお兄ちゃんと美里は、この後は神の住処に向かう。

何事もなく許可が下りたら、すぐに結婚して公爵領に住むことになっている。


私たちはもうすでに神の住処に行っているから、特にしなければいけないことは無い。

このまま夫婦になって公爵領に行くと思われていたが、それを選ばなかった。


神官宮の玄関口、目立たない馬車が一台用意されていた。

私とキリルが旅立つために、異空間の部屋付きの馬車を用意してもらった。



「…もう行くのか?」


「ああ。準備はもうできてる。」


「そっか。気をつけてな。ちゃんと連絡寄こせよ?」


「わかってるよ。カイン兄さんたちも気を付けて。」


キリルとカインお兄ちゃんがバシバシと背中をたたきあっている。

その横で、私と美里は泣きながら抱きしめ合っていた。


「…うぅ。さみし…い…。」


「うん…わた…し…も…。」


今日旅立つことは前から決めていたのに、寂しくて涙が止まらなかった。


ずっと四人で一緒にいたから、離れるのがつらい。

あの世界からこの世界に来た時、美里に会えないことを寂しいと思った。

もう二度と会えないと思った時だって、こんなに離れるのがつらいなんて思わなかった。


今は旅立つけれど、もう二度と会えないわけじゃない。

会いたくなったら、すぐにでも会いに行ける。


泣き止んで…もう一度だけぎゅっと抱きしめ合った。


「…っ。いって、きます!」


「ん!…いってらっしゃい。」


私たちが覚悟を決めるのを見守っていたキリルとカインお兄ちゃんも離れる。

パシンとお互いの肩を叩きあって、キリルが私の隣へと戻る。

そのまま美里とカインお兄ちゃんに背を向け、キリルの手を借りて馬車に乗った。


泣き崩れそうになった美里をカインお兄ちゃんが後ろから支えているのがわかった。

馬車が進むたびに小さくなっていく、その姿をずっと見ていたかった。







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