132.決意(キリル)
「なんでだ?一花が王妃の国なんだろう?」
処刑されなくて済むかもしれないと希望を持ったんだろう。
イチカの住む国へ行けば助かると思ったリツは、俺の言葉に不思議そうな顔をした。
「リツ…忘れたのか?
お前、イチカと身体の関係があっただろう。
本来、王妃っていうのは純潔、清らかじゃないといけないんだよ。
そうじゃなかったことを知るリツがユハエル国に行って…、生きていられると思うか?」
「……。」
「引き取ったことはイチカに内緒にして、そのまま殺されるだろう。
というか、国王はイチカのことを大事にしている。
後宮を廃止してイチカだけにするほど執着しているんだ。
むしろ…殺すためにリツを引き取るって言ったんじゃないかと思うくらいだ。
ユハエル国に行ったら、間違いなく存在ごと消されるだろうな…。」
「……嘘だろ。」
またベッドに深く座り込み、頭を抱えてしまったリツに少しだけ同情する。
だけど、練習だなんていって軽々しく身体の関係を持ってしまったのは自分だ。
この国では結婚する前の身体の関係はありえない。
異世界に詳しい国王だからこそ耐えられたとしても、
王妃の過去の男の存在を許すほど寛容だとは思えない。
イチカから聞いた話は、俺にとっても納得できることは無い。
恋人でもなかったのに、練習のために身体を許したなど理解できない。
魅了の影響もあったとしても、本当にユウリとのことを考えるのなら、
それは拒否できたはずだと思う。
まぁ、ここまでは一応選択肢として提示しただけの話。
情報を与えないで選ばせることはしたくなかった。
隠さず、すべて話した上で選ばせようと思っていた。
「そして、最後の一つ。
…リツ、君は向こうの世界に帰ったほうがいい。」
「…なに、言って?」
「聖女として来たものと違って、リツはこの世界に縛られていない。
向こうの世界に帰りたいと本気で願えば帰れるんだ。」
「嘘だろう?そんな簡単に帰れるのかよ。
今までだって帰りたいって何度も思ったのに帰れなかったんだぞ?」
「その帰りたいって思った時、ユウリとイチカと帰りたいって思わなかったか?」
「…思ってた。」
それはそうだろうな。あれほど三人で一緒になることに執着していたんだ。
一人で向こうに帰るなんて思いはしないだろう。
だから、その願いは叶えられなかった。
「ユウリはこの世界の魂だから、どうやっても向こうの世界には戻れない。
イチカは…本人が帰りたいって思わない限り無理だな。
リツが帰るには、一人で向こうの世界に帰る決心が必要なんだ。」
「俺、一人で?」
「そうだ。この世界にいたら、間違いなくリツは死ぬことになる。
俺がここに来るのは今日が最後だ。
次に誰かがリツを迎えに来たとしたら、それは処刑の日になる。」
「…悠里にはもう会えないのか?」
「今日ここに来ることを話した時、最後に会うか聞いた。
ユウリは会う理由がないって言っていた。」
それは明確な拒否だった。幼馴染としてのお別れも無く、責める言葉も無く。
もうこれ以上リツには関わらないと、ユウリはそう決めていた。
自分の話を聞かず、何人もの犠牲を出したリツにユウリは怒っていた。
だから最後だとしてもリツには会わない。
そう決めたユウリに、俺はせめて心残りを少なくしてあげたいと思った。
すべて忘れ、向こうの世界に帰ってほしい。
処刑されることなく、向こうの世界で穏やかに暮らしている。
それなら、いつかユウリがリツを思い出したとしても、懐かしいと思えるだろう。
「あんた、名前は?」
「俺か?キリルだ。」
「なぁ、悠里が選んだのはあんたなんだろう?
これからずっと悠里を守っていけんのか?
悠里を幸せにする自信あるのか?」
まるで挑むように問われたが、その気持ちはわかった。
俺にユウリを託せるか、確認しようとしている。
「ユウリがこれからどうするのかはユウリが決めることだ。
その道に俺が必要だと言ってくれるのなら、俺はずっと一緒にいる。
幸せにするなんてことは約束できない。
俺はユウリと一緒いられれば幸せだと思うけれど、
ユウリがそれを幸せだと思ってくれるかはわからない。」
「はっきりしないな…。」
「ユウリのこれからを決めるのは俺じゃないってこと。
もちろん何があっても守るし、一緒にいたいと願うよ。
だけど、それを押し付けるような真似はしたくないんだ。
俺は俺自身よりも、ユウリが大事だから。」
「…そういうことかよ。わかった……。」
納得してくれたのか、それからは何も言わなかった。
処刑は二週間後だと伝え、リツを残して部屋を出る。
リツは部屋を出て行く俺のことはもう見なかった。
…部屋からリツが消えたと報告があったのは三日後だった。
登録しておいた魔力計からは綺麗に砂が消えていた。




