130.話をしよう(キリル)
何人もの衛兵が両脇に立ち並ぶ廊下を進むと、奥に厳重に警備された部屋があった。
その部屋に入ると、奥のベッドに座る人影が見えた。
片手と片足に鎖をつけられ、移動を制限されているせいか痩せたように思える。
逃亡中に伸びた髪はそのまま、日にあたらないせいで肌の色は白くなったようだ。
この世界で知られているような異世界人らしくなく、色素の薄い髪と肌。
見つからずに逃亡できた理由は、この世界の人間とあまり変わらなく見えるからだろう。
身体の中に貯めこんでいる魔力も、存在を維持するため以外には使用していないようだ。
魅了を使うイチカとは違い、この男は魔力なしでもそこまで苦労せずに生きられる。
入ってきた扉を閉めると、その音でようやく俺が入ってきたことに気が付いたようだ。
めんどくさそうに顔をあげて、俺を見ると動きが止まった。
何か文句でも言うかと思ったが、そのままただ黙ってこちらを見ている。
あまり近づかないように、それでも会話はできる距離に椅子を持って行き座る。
視線を合わせると、まるで無気力に見えたリツの目に力が戻るのがわかった。
「…何しに来たんだ。」
「少し…ゆっくり話そうかと思ってきた。」
「話?悠里はどうした?」
「ユウリを連れてきたら興奮して話にならないだろう?
ここには一人で来たよ。
ほら…リツはこちらの世界の事情を何も知らない。
ユウリが知っていることを知らないでいるというのは、
話が通じなくても仕方ないんじゃないかと思った。
…少し長くなるが、まずはユウリがこの世界に来た理由を知りたくないか?」
「……わかった。話せよ。」
とりあえずおとなしく話を聞くことにしたリツに、
この世界に生まれるはずだったユウリがなぜリツの世界に生まれたのかを説明する。
聖女というもの、瘴気を浄化するという聖女の役割、ユウリの性格の変化まで。
瘴気や魔獣を目にした今なら、理解できるはずだと思った。
「おそらく…リツが瘴気に襲われなかったのは、
リツの身体の中にユウリの魔力が残っていたからだ。」
「ユウリの魔力が俺に?どういうことだ?」
やはり無意識でユウリの魔力を奪っていたんだろう。
リツとイチカが欠けている魂だということ、そして寄生するということ、
それによってユウリの身体に負担がかかっていたことを説明すると、
心当たりがあったのか悔しそうな顔になった。
それもそうだろう。
あの日、ユウリが魔力切れを起こしかけたのはリツが魔力を奪い続けていたからだ。
身体にふれている間中、ずっと魔力が流れるように奪われていた。
ただでさえ浄化するのに魔力を使い、限界に近かったユウリは魔力切れを起こしかけた。
あそこで助け出せなかったら、あのまま魔力を奪われたままだったら、
ユウリは死んでいたかもしれない。
「もしかして、今日おとなしく話を聞いているのは、
ユウリに悪いことをしたと思っていたからか?」
「……あの女の言うままに動いて、ユウリを連れ去ろうとした。
だけど、そのために五人も死んでいる。
あの囮になった男三人は税を納めていなかったらしい。
子どもを売るか協力するかしろとリイサに言われて、協力することを選んだ。
俺が……あの湖に連れて行ったんだ。
リイサには途中で黒いものに捕まっても大丈夫だって言われてた。
聖女に会えば助けてもらえるからって。
なのに、結果はあぁなった。
身体を食い破って、変な生き物が出てきて…。
大丈夫だって言ってたのに、馬車の運転手もリイサも死んだ。
……もしかしたら、俺が騙されていたのかもしれないと思った。」
「そういうことか…。」
すべて納得したうえでユウリを連れ去りに来たのかと思っていたが、
そういえばリツも異世界人だ。
聖女たちと同じように、目の前で人が死ぬのに慣れていない。
リイサに騙されて実行したが、目の前で五人も死んだのを見て、
自分のしたことを後悔しているんだ。
「さっき聞いた説明が本当なら、
俺と一花は、ただ邪魔をしていただけってことになる。
悠里にあれほど嫌がられるのも無理はないよな……。」
「そこまでわかっているのなら、話は早いな。
貴族牢から逃亡したこととユウリを連れ去ろうとしたこと、
ユウリに刃物を向けて傷つけようと脅したこと、この罪を償ってもらわなければいけない。」
「…俺、どうなんの?」




