127.黒幕
「ゲルガ侯爵家リリアナ嬢だ。
魔獣に襲われて死んでいたのはリリアナ嬢の乳兄弟のリイサという者だ。
御者もゲルガ侯爵家で雇っていたものだった。
明日、屋敷を訪ねて拘束する。」
「キリルが捕まえに行くの?」
「一応、侯爵家の令嬢だからね。神官隊長じゃないと拘束できない。」
その人を拘束するためには貴族の身分が必要で、
隊員だけではなく隊長のキリルが行くということなんだろう。
だけど、元婚約者のキリルが捕まえに行くのは気まずくないのかな。
向こうの浮気という理由で婚約解消しているとはいえ、
令嬢のほうはキリルをあきらめていないって言ってたはず。
ずっとあきらめていないキリルに会ったら…その令嬢はどうするんだろう。
キリルが情に流されることはないと思っているけれど、なんとなくもやもやする。
「…私も一緒に行ってもいい?」
「…会ったらひどいことを言われるかもしれないよ?」
「言われても気にしない。キリルを一人で行かせるのが嫌なの。だめ?」
「…絶対に近づかないって約束できる?俺の後ろに隠れているならいいよ。」
「わかった。キリルの後ろにいる。だから連れて行って?」
「仕方ないな…。」
キリルは連れて行きたくなさそうだったけれど、
私がどうしてもついていくと決めたのがわかったのか、
あきらめたようにうなずいてくれた。
美里とカインさんは拠点に残り、隊員たちが片付けるのを確認するらしい。
責任者として隊長の一人は残っていなきゃいけないからということだった。
キリルは私を拠点に置いていくつもりだったようだけど、
中途半端に事情を知ってしまっているために気になって仕方ない。
…私の知らないところで令嬢とキリルが会うのが嫌だっていうのもあるけど。
令嬢を拘束するために隊員たちを数人連れて侯爵家の屋敷を訪ねると、
何も知らない使用人たちは明らかに慌てていた。
それでもキリルが何か書類を見せると、すぐに令嬢の居場所を教えてくれる。
令嬢は中庭の東屋で優雅にお茶を楽しんでいた。
少し離れたところに侍女を数名待機させて、一人で花を見ながらお茶をしていたようだ。
濃い紫のドレスは大人っぽいデザインで、胸の谷間がはっきりと見えている。
モデルのような長身の令嬢は、急に現れた集団に少し驚いた顔をしたが、
その中にキリルがいるのに気が付いてにっこりと笑った。
「キリル様…わたくしを迎えに来てくださったのですね。」
「迎えに?」
「隊長のお仕事が終わったのでしょう?
…わたくし十八歳になりましたから、すぐにでも結婚できますわ。
このままキリル様の御屋敷に連れて帰ってくださいませ。」
まるで目の前にいるのがキリルしかいないような令嬢に、
すぐ後ろにくっついている私のことは見えていないんだと気が付く。
恋は盲目とは言うものの、私以外にも隊員たちがぞろぞろとついてきているのに、
まるで二人きりの逢瀬を見ているような気になる。
私より年下のはずだけど、色っぽいドレス姿とはっきりとした化粧で、
キリルと同じくらいの年齢の女性に見える。
迎えに来てくれた…やっぱりキリルのことをずっと待っていたんだ。
本当に何の憂いも無いように笑うので、この令嬢が本当に協力者なのかわからなくなる。
律が捕まったことや女性が亡くなったことを知らないのかもしれない。
だって…知っていたら、罪悪感があったら、こんな風に笑えないんじゃないかと思うから。
「リリアナ嬢…聖女を誘拐しようとしたリツという男性を手助けしただろう。
侯爵家の馬車、御者、使用人、それに領地の平民まで…。
聖女の誘拐をわかっていて協力した罪は重い
詳しい話は取り調べで聞くことになるが、拘束させてもらうよ。」
「キリル様?それがどうして罪になるのですか?」
リリアナ嬢は本当に不思議そうに首をかしげる。
でも、律のことを手助けしていないと否定することは無かった。




