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浮気された聖女は幼馴染との切れない縁をなんとかしたい!  作者: gacchi(がっち)


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123/139

123.苦しい

次に目をあけたら、見慣れている天井だった。

いつも私が使っている部屋のどれかだと思うけれど、どこの部屋だろう。

あのまま運び込まれたのだとしたら、拠点のテントの中の部屋だろうか。


「…ん?」


起き上がろうとしたら、何かに邪魔されて動けなかった。

腕を動かそうとしても少しも動けない。

何かに拘束されているような感じで…寝返りすら無理そうだった。

それでも何とか動こうともぞもぞしていたら声をかけられる。


「ユウリ…起きた?」


耳元でキリルの声がして、見たらすぐ隣にキリルがいた。

横から抱きしめられるように一緒に寝ている。

ベッドの中、キリルの手足に抱え込まれるように寝ていたせいで、

少しも動けなかったらしい。


あぁ、そっか。キリルから魔力供給されていたんだ。

こんな風に抱きかかえられているのはめずらしいけど、

それだけ魔力が足りなかったのかもしれない。

完全に魔力切れを起こすなんて初めてだけど、それに近いことは何度かあった。

その時も回復するまで時間がかかっていたはずだけど、

今回はどのくらい寝ていたんだろうか?


「キリル…私、何日寝てた?」


「ん?何日?まだ、あれから一時間もたってないと思うよ?」


「え?…私、魔力切れ起こしてなかった?」


「あぁ、すんでのところで俺の魔力を直接入れたから大丈夫だった。

 さすがに疲れ切って意識を無くしてたみたいだけど。」


「魔力を直接?」


そう言われ、キリルにキスされたことを思い出した。

あれは魔力供給だったんだ…初めてのキスだったのに、そっか。

悔しくて苦しくて、涙が零れ落ちる。

嗚咽をこらえきれなかった。


「ユウリ!?どうした。どこか痛い?」


聞かれても何も答えられない。

少しでも言ってしまったら…もうそばにはいられない。

こんなに苦しいのに、一度吐き出してしまったら止まるとは思えなかった。


苦しい。苦しい。

なのに、抱きしめてくれるキリルの手を離すことができない。




「…あぁ、もう。規則とか言ってられるか…。」



ぼそりとキリルが低い声でつぶやくのが聞こえた。

規則?何を言ってるんだろうと思ったら、ふわりと抱きあげられた。

そのままベッドの上に座らされ、両頬を手でおさえこまれる。

顔をそむけたいのに、両頬をおさえられているから動けない。


こんな泣いてボロボロになっている顔を見せたくなんて無いのに。

それなのに、覗き込まれるようにキリルの顔が近づいてきて、また苦しくなる。

もう離して…立ち直るまで一人でそっとしておいて…。

泣きながらそう訴えるのに、キリルは離してはくれなかった。


「ユウリ…こんなになるまで我慢させてごめん。

 苦しませたくないのに…。」


「…キリル?」


「俺は…ユウリが好きだ。

 一度規則を破ってしまったから、もう二度と破らないようにしようと…。

 でも、ユウリがこんなに苦しんでるのなら規則なんていらない。」


「…え?」


いま、私のことが好きだって言った?

視線を合わせると、いつものような静かな表情じゃなく苦しそうな顔だった。

キリルも今にも泣きそうに見えた。

まさか…本当に私のことを?


「すぐには信じられないと思うけど、俺の話を聞いてくれる?」


「…うん。」


「まず、謝るけど…ユウリの気持ちは全部わかっていた。」


「え?」


「俺をすぐに信用してくれたのも、好きになりかけていたのも、

 途中からその気持ちを隠そうとして俺に壁を作ってしまったのも。

 魔力を通していると、だいたいの気持ちは伝わってくる。

 …俺も、ユウリに素直な気持ちを魔力で伝えていたつもりだった。

 言葉にできない分、魔力だけでも、態度だけでも伝えられたらって。」


「魔力で伝わって…いた?私の気持ちが?」


「…そうだよ。ずっと俺のことで悩んでいたのはわかってたんだ。

 ごめん。これも俺から言うわけにはいかなくて。

 聖女への想いは隊長から言ってはいけないという規則なんだ。

 この世界を何も知らない聖女の気持ちを守るために、

 無理やり隊長に向けさせないようにある規則なんだ。

 あくまでも聖女の気持ちは聖女自身が決めなければいけないものだからって。


 ユウリが俺のことを信じ切れなくて、好きにならないって壁を作ったのはわかった。

 だけど、好きになってほしい、そのまま俺を信じて欲しいとは言えなかったんだ…。」


「規則…だから?」


「規則というよりも、それがユウリを守ると思っていたんだ。」


私の気持ちを、想いを知られていた。

ずっと、この世界に来てから悩んでいたのも、苦しんでいたのも。

馬鹿にされたような気がして、怒りなのか悲しみなのかわからない気持ちでいっぱいになる。

だけど…同じように苦しそうなキリルに何も言えなくなる。


「壁を作られてから、ユウリの気持ちがわかりにくくなった。

 それを少しでも何とかしようと思って、ずっと俺の気持ちを魔力で伝えた。

 だけど、そうすればするほど壁は厚くなっていって…。

 そんな状況で聖女の仕事をさせるなんて…俺は嫌だった。」


キリルの気持ちを魔力で伝えていた?

いつも暖かくなるような魔力は、私を想っていてくれたから?

あぁ、そうか。

キリルの魔力を私が冷やしている感じがしていたのは、

私がキリルの気持ちを受け止めようとしていなかったからなんだ。


「ユウリのためだって我慢してたけど、もう無理だ。

 こんなにまでユウリを追い詰めて、ユウリのためになるなんて思えない。

 …魔力切れを起こしかけて…直接魔力を送り込んだ。

 ユウリが泣いたのは、それが嫌だったんだよな?」


私の頬をゆっくりと撫で、涙の痕を消すようにしているキリルと視線が合う。

ちゃんと全部話して欲しい、真剣な目がそう言っていた。

…どうして泣いたんだっけ。あぁ、そうだった。


「…あれが初めてのキスだったのに。

 なのに、魔力を送り込むためだけにされたんだと思って…悲しくて。

 キリルにとっては、私とのキスなんて、何とも思わな…」


最後まで言う前に、きつく抱きしめられていた。

キリルの腕の中の匂いに包まれ、身体の力がぬけていく。

さっきまですごく悲しかったはずなのにな…。

こんな風に抱きしめられたら許してしまいそうになる。


「ユウリ…ごめん。俺もあれが初めてのキスだった。」


「え?」


「だけど、ユウリが魔力切れを起こしたら、

 何日もユウリは生命活動を止めて眠り続けてしまう。

 まるで人形のように動かなくなって…

 ずっとユウリはもう起きないんじゃないかって不安に襲われる。

 …耐えられないんだ。ユウリのいない日常なんて無理だ。

 ユウリを失いたくない、そう思ったらキスして魔力を送り込んでいた。

 あんな風に初めてのキスを奪いたかったわけじゃなかった…本当にごめん…。」


そういう理由だったんだ。

魔力切れを起こしても数日間眠るだけなんだと思っていた。

その間、キリルがそんな風に不安になるなんて知らなかった。

うつむいて少しだけ震えているキリルの頭を撫でたら、ようやく私を見てくれた。


「私が…どうでも良かったわけじゃない?」


「そんなわけない!俺は…ユウリが大事で…守りたくて。

 早く聖女の仕事を終えて…想いを伝えようって。

 だけど、もう我慢できなかった。

 ユウリが好きだ…聖女じゃなくなっても、俺をそばにいさせてほしい。」

 

「そばに…いいの?貴族に戻らなきゃいけないんじゃないの?」


「公爵家には戻らない。ジェシカが継いでくれるから大丈夫。

 そんなことは些細なことだから心配しなくていい。

 …ユウリは俺と一緒にいたいって思ってくれる?」


「…一緒にいたい。キリルの隣にいたい。

 ずっと…ずっと、一緒にいても…いいの?」


「あぁ、ずっと一緒にいよう。

 良かった…。ユウリ、やり直してもいい?」


「え?」


「二人の初めてのキスを。」


「…ん。」


ゆっくりと顔を上向きにされ、キリルの顔が近づいてくる。

目を閉じるのが恥ずかしくて、視線を下へと向けた。

ふわっと熱を感じると唇が重なっていた。

魔力を送っているわけじゃないのに、ふれている部分が熱く感じる。

キリルの手が私の両頬から動いて、頭の後ろと背中にまわされる。

唇が、ふれている手が、ぶわりと熱を持つ。

身体の奥をくすぐるような気持ちよさに、めまいがしそうだった。




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