115.危険な場所
拠点となる場所に着いて、馬車から降りるともうすでに異様な雰囲気だった。
肌を刺すような気配に不安が募り、ここから逃げ出せと身体が警告してくる。
思わず振り返って美里を見ると、やはり美里も気が付いたようで顔をしかめている。
「二人ともどうした?」
「…すごく瘴気の気配がするの。すぐそこに瘴気があるような感じで。」
「うん。最初に瘴気に近づいて浄化した時よりも強く感じる。
この近くで瘴気が発生したわけじゃないよね?なんで?」
「本当か!?…どういうことだ。
発生の報告が来たのは昨日なのに。
ここは比較的王都から近い場所だし、
発生して間もないのなら二日あれば終わると思っていたんだが。」
「キリル、二人がこう言うのなら、隊員たちの作業も朝まで待ったほうがいい。
暗い中で作業をしたら、被害が出るかもしれない。」
「そうだな…全員、馬車の中で朝まで待機しよう。
テントを張るのも朝になってからで。」
少し離れた場所にいた隊員にキリルが指示を出すと、隊員は走って他の隊員に知らせに行く。
それを見送って、私たちは馬車の中に戻った。
テントよりも馬車の異空間の部屋のほうが安全らしい。
確かに部屋の中にいると瘴気の気配はほとんどわからない。
これまでなかった指示に隊員たちも慌てている気がした。
しっかりと瘴気の気配を感じ取れるのは聖女だけなのかもしれないけれど、
訓練された隊員たちだって異様な雰囲気は感じられたはずだ。
緊張が高まる中、少しでも休んだほうがいいと私たちは寝室に押し込められた。
さすがに眠れるとは思えなかったけれど、パジャマに着替えさせられてベッドの中に連れて行かれる。
「今は何も考えないで、少しでも休んで。」
「わかった…。」
いつもよりも少しだけ強く抱きしめられ、目を閉じてキリルの匂いを嗅いだ。
落ち着こうと思うのに、ちっとも落ち着かなくて泣きそうになる。
「大丈夫、寝なくてもいい。
朝までこうしていよう。」
「うん。」
頭を撫でてくれるキリルに甘えて、胸に頭を摺り寄せた。
すりすりしている私に何も言わず、キリルがただ黙って頭を撫でてくれる。
そうしていると少しだけ眠くなってきた。
朝方になってうとうととした気がしたけれど、どれだけ眠ったのかはわからない。
こうして、初めて寝不足の状態で浄化にのぞむことになった。
「おはよう…美里。」
「おはよう~。…悠里、めっちゃ眠そうな顔してる。
私が寝不足なのはめずらしくないけど、悠里がそんな顔してるの初めてじゃない?」
「うん…なんだか眠れなくて。そんなにひどい顔してる?」
「いや、ひどいわけじゃないけど、悠里はいつもちゃんとしてるから、
ぼーっとしてるの初めて見たなぁって。大丈夫?」
「うん、大丈夫。動けると思う。」
そんな会話をしていると、キッチンからカインさんがトレーを持って出てきた。
後ろからキリルもトレーにお茶を乗せて出てくる。
今朝のご飯はトマトのリゾットだった。
小さく刻んだ野菜とベーコンが入った、少し酸味の強いリゾットで、
寝不足で食欲がない状態でもするすると入っていく。
キリルのお茶は冷たいミルクティだった。
いつもよりも濃い目に入れてあるミルクティは苦みもしっかりあって、
とろりと甘く目が覚める。
「ふぅ…美味しかった。食べたら目が覚めた気がする。」
「うん、これなら頑張れると思う~。」
「それなら良かった…でも、ちょっと状況がおかしい。
二人とも無理はしないで。
ダメそうなら一度撤収して立て直してもいい。
やばいなと思ったら、すぐに言ってくれる?」
「うん。」「わかった~。」
この領地はやはり危険な状況なんだ。
それでも、瘴気の浄化に行かないわけにはいかない。
気合を入れて馬車から降りると、薄い霧がかかった拠点は遠くが見えにくくなっている。
瘴気の気配は変わらずに濃いままだった。
今にも襲い掛かって来そうな気配に、身体がぶるりと震えた。
「一応はテントを張っておくけど、状況によってはまた馬車に戻るから。
二時間前から隊員たちが確認に行っているから、もうすぐ報告が来ると思う。
テントの中で待機しよう。」
言われるままにテントに入ったけれど、待つことなく隊員からの報告が来た。
「隊長!確認に行った隊員の馬がやられました!」




