114.不安な気持ち
「…嘘、なんだよね?その…キリルと結婚するっていうのは。」
今まで言うことは無かったけど、ちょっとだけ思っていた。
聖女と神官隊長が一緒に行動するのは瘴気が浄化し終わるまで。
その後、キリルはどうするんだろうって。
聖女が望めば、その後は平和に暮らしていけるというのは聞いている。
私も美里も終われば普通の一般人になるんだろうし、
どこかでのんびり平和に暮らせるのならそれでいいと思う。
だけど、第一王子のカインさんと公爵家のキリルはそうじゃない。
貴族に戻って、家の決めた人と結婚することになるのかもしれないと思っていた。
それが元婚約者だと言われてもおかしくない。
一度でも婚約したというのなら、それだけの理由があるんだろうし。
浮気を見たと言っても、キスだけなんだし…。
そう思って聞いてみたら、キリルに両頬を手ではさむように持ち上げられた。
「ユウリ、俺がリリアナ嬢を嫌っているのはよく知っているだろう。
あんな令嬢と結婚する気なんて無いよ。
ひどいな…もう少し、俺を信じてよ。」
「う…ごめんなさい。」
急に近い距離で見つめられて驚いたけれど、
それよりも寂しそうな顔をさせたことに罪悪感がすごくて素直に謝った。
キリルが話してくれた時にその令嬢を受け入れられないって言ってたのに、
結婚するかもしれないだなんて思ってしまっていた。
幸せになれない結婚をするような人だなんて思っていないのに。
もう一度ちゃんと謝ると、両頬の手は離される。
キリルがまだ寂しそうな顔をしていることが気になったけれど、
それ以上は何も言えなかった。
「違うってわかってくれたらいいよ。
リリアナ嬢はなんていうか、うーん。ストーカーっていうの?
あきらめずに俺を追いかけて来るって感じで…。
そういう犯罪が向こうの世界ではあるんだろう?」
「あぁ、ストーカーなんだ…?」
「うん、婚約解消しても神官宮に何度も面会申請が来ていたよ。
もちろん俺は会うわけないし、社交界にも顔を出していない。
婚約解消してから一度も会っていないんだけど、あきらめないんだ。
手紙や贈り物はすべて送り返しているのに、一向に減らない。
今回も領地にいるのは俺が行くからだと思う。
普通ならリリアナ嬢は王都にいるはずだから。」
「そうなんだ。キリルに会うために領地にいるんだね。
気を付けたほうがいいって、リリアナ嬢が私に何かしてくるかもってこと?」
「そう思って行動したほうが良さそうだ。
何かあってからじゃ遅い。
領地に入ったら絶対に一人にならないように気をつけていて欲しい。」
「わかった。いつも以上に気を付けるね。」
私だけが返事をすると、カインさんが美里へも注意をする。
美里は他人事だと思っていたのか、ぼーっとしていたように見える。
「気を付けるのはミサトもだよ?
リリアナ嬢はどちらがキリルの聖女なのかわからないだろうから。」
「え?そうなの?
ユウリに間違えられて何かされるかもってことか…。
わかった。私も気を付ける。」
次が最後の領地だというのに、すっきりしない気持ち。
ストーカーだというリリアナ嬢も気になるけれど、
すべての浄化が終わった後キリルはどうするんだろう。
終わるまでは聞かないつもりでいるけれど、もやもやする気持ちは変わらない。
きっと、美里も同じような気持ちでいる。
お互い、聖女としての仕事が終わるまで、
この気持ちを二人に知られないように頑張ろうと誓った。
やっぱり一人だったら耐えられなかったかもしれない。
美里も一緒だから、同じように苦しんでいるから、こうして頑張れる。
「もうすぐ着くよ。」
窓の外は夜で、何も見えなかった。
ゲルガ侯爵領の瘴気の発生場所は、広い森で大小の湖がいくつも集まっている場所らしい。
そこから少し離れた場所に拠点を作って、朝になるのを待つことになる。
何も見えないけれど、なぜか瘴気の気配がする気がして…。
暗い森の奥を見つめていた。




