107.山の道
山の中を歩いての確認作業はやはり時間がかかったらしく、
私たちの出番は次の日の昼すぎだった。
途中までは馬で行き、その後は歩くから覚悟してほしいと告げられ、
テントから外に出るとまだ山は雲に覆われていた。
いつものようにキリルの馬に私が、カインさんの馬に美里が乗る。
私と美里が向き合うように横抱きされて乗っていると、カインさんに馬に乗った令嬢が近づいてきた。
案内人の伯爵令嬢ジーナさんだった。
今日はふわふわの髪を一つにまとめてお団子にしていた。
昨日とは違うデザインの乗馬服を着ているが、やはり身体の線が強調されている。
胸が大きいのに他は華奢で、同じ女性から見てもドキッとしてしまう。
私とキリルが右側に、カインさんと美里が左側を馬で歩いていたので、
ジーナさんは美里の背中側にいることになる。
声は聞こえているだろうけど、ジーナさんのことは見えていないはずだ。
それでも独特の少し高い声を聞いた瞬間、美里の顔が無表情になる。
私もこういう声の出し方をする女性はちょっと苦手だ。
甘えているような媚びているような、わざと作っている声。
大学までずっと共学だったから、こういう女子が必ず存在していた。
どっちかというと、そういう女子にコロッと騙される男性のほうが嫌だったけど。
…カインさんはそんなことないよね。
おそるおそるカインさんの様子をうかがうと、カインさんはいつも通り王子様だった。
案内人のジーナさんに冷たくするわけにもいかないんだと思うけど、
カインさんの腕の中にいる美里がどんどん不機嫌になっていくのに気が付いているだろうか。
どうしても三人のほうが気になってしまい、
私とキリルで楽しく会話するという雰囲気にはならない。
黙ったままの私にキリルは気が付いたようで、一度だけ背中をなでられた。
見上げたら困った顔で笑いかけられ、同じように困った笑顔で返した。
私とキリルで解決できることでは無い…それはわかっているけれど。
ジーナさんが話していることはこの山の道や天候の話で、案内人としての会話以上のことは無い。
だからこそ邪魔することもできずにもやもやする。
だって…母親が病気で危ないっていう人が、こんなに楽しそうにしているのかな。
カインさんと話すのがうれしくて仕方ないって顔している。
目がキラキラしてカインさんのことが好きなんだって、
無関係な私が見てもそう思うけどカインさんはどう思っているんだろう。
「そろそろ馬から下りて歩くよ。大丈夫?」
「うん、平気。」
キリルから声をかけられ、周りを見たらいつのまにか山の中腹辺りまで来ていた。
この先はがけ崩れがあった場所で、馬では通れなくなっているという。
実際にその場所に行ってみたら道が無く、どうするのかと思ったら横から上に登るという。
「え?ここ登るの?」
「ええ、ここの道は完全にふさがってしまっていて無理なのです。
ここを少し登ると道に戻れます。」
道の横側の崖になっているような場所を登ると言われて無言になる。
どう見ても私が登れるような場所ではなく、どうしようかと思っていたら、
ひょいとキリルに縦抱きにされた。
急に抱き上げられ、驚いてキリルの首に抱き着くようにつかまる。
「えぇ?」
「あぁ、ユウリには無理だろう?
俺が抱えて登るから安心して?」
「ホントに?このまま登れるの?」
「大丈夫、魔術もあるから絶対に落ちないよ。安心していい。」
「そっか。じゃあ、お願いするね。」
良かった…私じゃ無理だって思ってた。
美里もカインさんに抱えてもらって登るのかなって見たら、なんだか揉めている。
キリルもそれに気がついて、私を抱えたまま三人に近づいた。




