人生の最終盤をどう迎えるか
こうして俺は、確実にリーネとトーイにアーク家のすべてを引き継ぐために、そして、
『人生の最終盤をどう迎えるか』
という手本を示すことに残った気力と体力を全て注ぐことにした。
正直もう、かなりつらかったのも事実だ。とにかくだるく、もはや体のどこが痛いのかも分からないぐらいにあちこち痛くて、座ってさえいられない。
「お父さん、大丈夫?」
九歳になったマリヤが、俺の口に野菜スープを含ませてくれながら問いかけてくる。とても心配そうな、と言うか不安そうな、何とも言えない表情で。
そして、俺の体を拭いてくれている、十八歳になったカーシャは、もう、色々察してしまったのか、沈痛な表情で黙ったままだ。
村の連中の死を何度も言い当てた彼女には、そういう意味でも分かってしまうんだろう。だから敢えて淡々と接することを心がけているんだと思う。
トーイのことで俺に反発していたはずなのに、こんなにも献身的に振る舞ってくれるんだから、彼女にとって俺がそれだけ大切な存在になっていたんだろうな。それを成し得た自分自身が誇らしい。
阿久津安斗仁王だったら、間違いなくこんな風にはしてもらえなかったはずだしな。
そんな俺に、リーネは言う。
「トニーさん、何かしてほしいことはありませんか? 私達にできることなら力になります」
けれどそう言われると、逆に何も思いつかない。阿久津安斗仁王の悔いについては、もうあらかたケリがついちまったしな。あいつがどれだけ馬鹿なことやってたか、どれだけ自分で自分を不幸にしてきたのか、それどころか、自分の周りの人間まで巻き込んで不幸になっていったのか、はっきりと確認できちまったんだしなあ……
この上で何か必要なものってあるか?
もちろん、ないわけじゃない。今も俺に背を向けて食事の後片付けをしている十二歳になったマリーチカとは、もうちょっとちゃんと仲直りしておきたかった。その上で、彼女と、カーシャの、花嫁姿を見ておきたかったというのは、正直言ってある。だがそれには、最低でもトーイやイワンと同等以上の男が必要だ。じゃなきゃ、俺の大事な娘はくれてやれねぇな。
それに、別に結婚だけが幸せってわけでもねえしな。アントニオ・アークだって結局は結婚してねえし。何度かそういう話はあったが、今の村の大人をアーク家に入れるのはな。不安しかねえ。
だからもういいんだよ。結婚そのものは阿久津安斗仁王の時の経験だけで十分だ。
とは言え、ボリスとペトロとラーナについては、まだまだこれからだったなあ。
もっとも、そっちもリーネやトーイがちゃんとやってくれてるけどよ。
ああ……なんだ……やっぱり俺の役目はもうほとんど終わってるじゃねえか……




