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当たりが強い

そしてマリーチカは、ぱっと見には生意気そうなきつい表情をした女の子だった。実際、口も悪い。


特に、リーネに対しては当たりが強い。


「ラーナが泣いてるでしょ。さっさと静かにさして!」


などと口にしたりもする。ただこれは、実母であるアンナや実父の影響が大きいんだろうなとは感じてる。


加えて、リーネは、大好きなトーイを奪った<憎い女>だしな。それでいて実際に暴力を振るったり、ラーナに対して直接八つ当たりをするわけじゃないから、俺はその度に、悲しげな表情を作ってただ彼女のことを見る。するとマリーチカは、


「なによ……私は悪くないからね…!」


などと言いながらもひどく気まずそうな表情になる。だからこれもまあ些細な<ガス抜き>なんだろう。他所様に当たることを考えれば、家族内で済ませてくれているだけまだマシだと思う。


できればリーネじゃなくて俺に当たってくれればいいんだが、リーネの方も、


「マリーチカの気持ちも当然のものですから」


と言ってくれている。リーネ自身が成長して、俺と同じことができるようになり始めてくれているんだ。彼女はもう二十七だが、阿久津安斗仁王(あんとにお)としての記憶を持つ俺と違って、二十七年分の人生経験だからな。俺と全く同じことができなくても当然だよ。


むしろここまで頑張ってくれているのが素晴らしいと言っていいだろう。村の連中よりはずっと<大人>だ。


マリーチカの態度のことにしたって、ラーナがいずれ成長して何らかの理由で反抗的に振舞うようになった時の<予行演習>だと思えば、どうってこともないさ。


何度も言うが、子供は<人間>だ。自分じゃない人間が完全に自分の思い通りになってくれるというのは普通はあり得ない。


フィクションなんかでも、ヒロインが主人公の都合のいいように振る舞うことに対してバカにしてたりしただろう? だったら現実の人間が自分の思い通りに振る舞ってくれないことも理解しろや。


<主人公にとって都合のいいヒロイン>をバカにしつつ現実の人間が自分の思い通りに振る舞ってくれることを期待するとか、いやいや、ちゃんちゃらおかしいだろ。


子供だって同じなんだよ。だって人間なんだから。人間なんだから自分にとって都合のいいように振る舞ってくれるとは限らない。そんな分かりやすい話を理解できないっていうのは、冗談抜きでどうかしてると思うぜ?


だからマリーチカが俺やリーネにとって都合よく振る舞ってくれない事についても、別に、キレるようなことじゃねえんだよ。



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