マリーチカの処世術
マリーチカは、継父と実母に捨てられて、俺のところに来た。実父もロクデナシだったから実父のところに行くわけにもいかなかったしな。
だが彼女は、トーイに依存することでそんな境遇を乗り越えようとした。なのに俺が、トーイとの仲を引き裂いたんだ。だから恨まれて当然だと思う。
なのに彼女は、俺に対して、
『気持ち悪いオッサン』
と罵る程度で済ませてくれている。家から出て行くでもなく、感情的に歯向かってくるでもなく。<仕事>も、カーシャと一緒に真面目にこなしてくれる。
それ自体は、彼女の<処世術>なんだろう。まだ子供で、この家を追い出されたら生きていくこともままならないからこそのものだと思う。
でも、だからこそ俺は彼女を蔑ろにしたくないんだ。今、俺に見捨てられれば彼女はそれこそ命に関わる状態にあるわけで。
俺達が生きていくのも難しいほど追い詰められていたら、マリーチカのことまで構ってやれなかったかもしれない。それは事実だし、俺だってその程度の薄情さは持ち合わせてる。だからこそ、村の子供達全員を助けないんだからな。マリーチカの実の兄のユーリィについては、継父と実母のところに残してきた。向こうが手放さなかったからだ。
そしてユーリイも、マリーチカのことはもう<他所の子>として接してくる。俺に対しては愛想よく、
「こんにちは!」
と挨拶もしてくるものの、マリーチカに対しては無視してるかのように何も言わない。ただこれはカーシャやボリスに対しても同じだから、単純に気まずいだけなんだろう。
それに彼の場合は、
『家畜として有用』
だったようだ。少なくとも実父のところにいた頃よりはまだマシな扱いを受けているのが分かる。怒鳴られもするし殴られもするものの、取り敢えずただの八つ当たりや憂さ晴らしで暴力を振るわれるわけじゃないらしいし。
それなら、この世界の子供としちゃむしろ上等じゃねえかな。継父と実母の間に生まれたのが女の子ばっかりでまだ男児が生まれてないからってのもあるとしても、まあ、マリーチカと違って<労働力>としては使い出もあるし、当面は安泰だろうさ。
兄と妹でこうやって人生が別れちまったのも、そんなに珍しいことでもないと思う。そして、
<兄妹の情>
なんてのもここじゃ大して意味を持たない。ユーリイ自身、マリーチカを人間として扱う振る舞いを習ってきてないしな。基本的にどうでもいいんだよ。血の繋がった兄妹であっても、
『自分とは別の人間だ』
という意味じゃ、
<他人>
だし。




