人間ってのは
こうしてリーネとトーイが結婚し、また二年が経った。
実年齢ではリーネが二十七。トーイが十七。カーシャが十三。マリーチカが七。マリヤは四歳だ。
そして、<ラーナ>一歳。
ラーナはリーネとトーイの娘だった。
さらに、<ボリス>五歳。<ペトロ>三歳。共に男児。こちらはまあ、また村で捨てられた子供だ。ボリスはイワンと同じく足が不自由で仕事ができなくて、ペトロは耳が聞こえなかったことで捨てられた。
それもあって、リーネとトーイの家を新しく建てた。さすがにそれはもう俺達だけではどうしようもなかったから、村の職人に依頼して、周囲の木を伐採して土地を広げ、素人工作じゃないちゃんとした家を建ててもらった。ここまで俺とトーイが地道に信頼を勝ち取ってきたことで快く引き受けてくれたんだ。
まあ、俺に対する、
<子供を慰み物にしている変質者>
という風評は完全には拭えてなかったが、気にしない奴は気にしないでいてくれたしな。
だからやっぱり、
『<自分の力>だけで生きていくのは難しい』
というのを実感したよ。人間ってのは、人間同士で互いを支え合うことでしかまともに生きていくことはできないんだ。
ただ……
ただ、ここにはもうイワンはいない。リーネのことが諦めきれなくて、彼女とトーイの姿を見ているのがつらくて、
「僕は……ここにはいられない……」
そう言って、エリクの伝を頼って街に出たんだ。そして、エリクのプロデュースの下、<絵本作家>として活躍している。
そうだ。イワンは俺の下から巣立っていったんだよ。たとえそれが<失恋>が切っ掛けだったとしても、彼にはもう、自分で自分を養う程度の力は身に付いていて、自立できたんだ。
俺が、
『他人は信用するな。自分が信頼される人間であればいい』
と言って聞かせてたのをしっかり実践して、エリクとも互角にやり合っているらしい。決して一方的にいいように利用されているわけじゃないそうだ。ここを出る時に持たせた、彼がこれまで稼いだ金を改めて見て、それも自信に繋がったんだろう。街でも数年くらいは働かなくても食っていける程度の蓄えにはなっていたそうだ。
そして、彼の描いた絵本、
<働き者のネズミのリーネと臆病者のネコのイワン>
というのがヒットして、さらに金持ちになったとも。内容は、
『ある家でネズミ退治のために飼われていたネコのイワンはとても臆病でネズミを捕まえられなくてそれで捨てられたのを、リーネというネズミが面倒を見てくれて、そうしているうちに自信がついて町を捨てリーネと共に山で野生として生きていくようになる』
ってものだった。うん。明らかに自分がリーネと結ばれる<if>を意識したものだな。
しかし、彼のその絵本がヒットしたということは、やっぱりここは、
<阿久津安斗仁王が生きていた世界の過去>
じゃないということだろう。そんな絵本があるなんて、聞いたこともないし。
でも、そんなことはどうでもいい。何しろイワンも、今は幸せに暮らしてるそうだからな。
父親としては、それが何よりだよ。




