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アリバイ

そして、夜。


一日降り続いた雨が夜更けになってようやく上がった頃、俺とリーネとトーイとイワンは、作業場のある部屋に集まって、改めてテーブルを囲んでいた。カーシャとマリヤとマリーチカは眠っている。


そうして再度この四人で話し合う。


だがその前に、


「トーイ、言いたいことがあったんだろう? 聞かせてくれ」


俺が告げると、トーイは、唇を噛んだり、拳を握り締めたり、視線を何度も泳がせたり、深く深く懊悩してるのがすごく伝わってくる様子でしばらく考え込んだ上で、頭を下げた状態で重々しく口を開いた。


「……俺は、俺がリーネを好きだってのを認めることで家族がバラバラになるんだったら、別に我慢してもよかった……リーネのことは好きだけど、俺、家族がバラバラになるのは嫌だ……」


その彼の言葉に、俺も、


「だから、リーネのことを好きだと言ったのを取り消そうとした、か……?」


問いただす。すると、


「……」


彼は俯いたまま頷いた。そこで俺は今度は、イワンに問い掛ける。


「じゃあ、イワンはどうだ? 家族がバラバラになってでもリーネと結婚したかったか……?」


それに対してイワンは、


「……!」


何とも言えない目で俺を見つつ、言葉がつかえたように口を開けたまま頭を横に振る。だから俺は、


「そうか……ありがとう……」


静かに応えた。


ああ……トーイもイワンも、この家族を大切に想ってくれてたんだってことは伝わってくるよ。そこまで大切にしたいと思える家族を作れたことに、俺は胸に込み上げてくるものを感じつつリーネに向き直って、


「そんなわけで、改めて俺の方からも頼む。リーネ。トーイと結婚してやってくれ。お願いだ……」


敢えて<お願い>という形で告げた。こうすることで、


『お父さんにお願いされたから仕方ない』


という<アリバイ>を彼女に持たせることができたと思う。


人間ってヤツは、自分の気持ちに正直になるにもアリバイが必要になる時もあるだろう? 特に大人になるとそのアリバイがないと何も決められないことさえでてくる時もある。しがらみとかなんとかの所為でな。


<家長の権限>ってえのは、こういう時にこそ使うもんなんだろうなって気がする。決して自分にとって都合よく家族を操るためにあるんじゃねえって思うんだよ。これの方が俺自身、腑に落ちるんだよな。


「……分かりました……お父さんがそう言うなら……」


リーネの言い草を『ズルい』と感じる奴もいるだろう。それ自体は<個人の意見>として持ってても構わない。けどな、だからといって<俺の娘>を蔑むことは許さねえ。


彼女はここまでアーク家を支えてくれた自慢の娘なんだ。その彼女を傷付けようとするような奴は、何人(なんぴと)たりとも認めねえよ。



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