家族会議
とは言え、これで問題が片付いたわけじゃない。イワンだってこれだけで本当に諦められるわけじゃないだろう。
『もしかしたらまた気が変わってくれるかもしれない』
などと思ってしまうのも当然だしな。それも、『女々しい』とか『往生際が悪い』とか『しつこい』とか、言わないでやってほしいもんだ。まだ実際にしつこくしたわけでもないんだしよ。
ただ、ベッドに入ってからもメソメソしてたのは、さすがに気が滅入るけどな。しかし、我慢我慢。何もかもが俺の思い通りになるわけじゃない。このくらいは大目に見なきゃ。
で、朝、なんともまあ、どんよりとした空気が。
「なによ。元気ないね」
マリーチカが両手を腰にやり、やけにマセた言い方をする。
無理もないか。イワンはげっそりとやつれた様子だし、リーネも寝られなかったのか目の下にクマを浮かせてるし、トーイもすぐに察したみたいでいたたまれない様子だしで。俺の膝の上に座ってるマリヤも、いつもと違う様子に不安げだ。
しかもトーイは、
「やっぱり、俺……リーネのこと……」
とか、イワンを見ながら言い出したから、
「やめろ、トーイ。そういうのはな、<死体蹴り>って言うんだ。自分が上の立場だからこそ出てくる言葉だ。相手を憐れむのは労わりじゃない。むしろ蔑みだと俺は思う。それにリーネの気持ちまで踏みにじるのか? 誰も幸せにはならないぞ」
きっぱりと言ってやった。
「ぐ……」
トーイは言葉に詰まって、視線を下げる。今日はこのまま、<家族会議>だ。おあつらえ向きに早朝から雨も降ってる。雨の日は村には行かないことになってるからな。
まあ、雨で外が暗いから余計に家の中まで暗くなってるわけだが。
そして俺の言葉でカーシャも察してしまったようだ。
「トーイ……まさか……」
「……」
応えられないトーイの代わりに、俺が、
「ああ。トーイとリーネは互いに好き合ってる。二人ともそれをようやく認めたんだ。だから俺は二人の結婚を認めようと思う」
と告げる。
「え……っ!?」
「そんな……!!」
マリーチカは唖然となり、カーシャは一瞬でぽろぽろと涙をこぼし始めた。そして、
「ヤダ! そんなのヤダ!! トーイは私と結婚するの!!」
いきなり大きな声を上げたマリーチカの剣幕に、マリヤが「ひっ!」と息を詰まらせて体を竦ませた。だから俺は、マリヤを守るようにそっと抱き締めながら、
「マリーチカ、すまん。トーイの気持ちはもうずっと前からのものなんだ。もしかしたらマリーチカが生まれる前から、な……」
なるべく穏やかにそう言うが、彼女は、
「イヤだ……イヤだあ~……!」
大きな声で泣き始めたのだった。




