お前達の結婚相手を勝手に決めることだってできる
そんなわけで、取り敢えず個別に話を聞くことにした。
次はトーイだ。朝、
「トーイ、すまんが薪を拾うのを手伝ってくれ」
鍛冶の仕事を始める前にそう言って家の外に連れ出す。そして、森に入って落ちた枝を拾いつつ、
「なあ、トーイ、リーネと結婚したくないか?」
こちらについても単刀直入に訊く。だいたいの気持ちは察せられてるから回りくどい言い方をしてる時間もないしな。
「な……!? あ……! 何言ってんだよ、父さん……っ!」
見た目にはすっかり立派な<男>になって、しかしいつもは口数少なく仏頂面を決め込んでることの多いトーイが、一瞬で耳まで真っ赤にしやがった。こんな分かりやすい図星があるか? ってくらいに図星だったな。
ただ、トーイは視線を逸らして、
「それは、イワンに言ってやれよ……!」
とか言いやがる。往生際の悪い奴だ。だから俺は、
「あのなあ。俺はお前に言ってんだ。イワンに言ってるんじゃない。お前の正直な気持ちを確認するために訊いてるんだよ。それにな。俺はお前達の親だぞ? 何だったらお前達の結婚相手を勝手に決めることだってできるんだ。でもその前にそれぞれの気持ちを確認しておこうと思って訊いてんだ。正直に言わなきゃ分からんだろうが」
きっぱりと告げてやる。
『お前達の結婚相手を勝手に決めることだってできる』
この世界じゃそれはごくごく当たり前のことだった。親が子供の結婚相手を決めちまうなんてことも、別に珍しくもない。俺だってアンナと何度もくっつけられそうになった。その度にはぐらかして逃げてきただけだ。
するとトーイは、やっぱり視線を逸らして、険しい表情をして、
「リーネは……姉さんだから……」
だと。
まあ、確かに物心つくかどうかって頃にうちに来て、それからずっと俺の子供として育ってきて、リーネを姉として育ってきて、実の姉みたいに思ってきたんだろう。それが今になって女性として意識するようになったことに引け目を感じてるというのもあるのかもしれない。
けどな。ここにはメンドクサイ法律とかはねえし、血も繋がってねえんだよ。インモラルもへったくれもねえんだ。俺がリーネと結婚するのは気が引けるが、別に血の繋がった実の姉弟だって教えられてきたわけじゃねえだろ。てか俺は血が繋がってない赤の他人だってことは何度も告げてきた。それで何の遠慮をすることがある?
と思ったが、まあ、あれだな。俺自身がリーネと結婚するのを『ないな』と思ってるのと同じなのかもしれん。
『姉弟同然に育ってきたのに、そういうのって許されるのか?』
って思ってしまうのもあるんだろう。
……マジメか!?




