思いがけない新展開要素
こうして、
<思いがけない新展開要素>
も華麗にスルーして、俺達は淡々と自分達の日常を守ることを目指す。
そう。改めて言うが、俺達が目指してるのは<日常系>だ。無駄に波風なんか立てたいとも思わねえ。家族が笑顔で毎日を暮らせて、外で嫌なことがあっても家に帰れば『ガハハ!』と笑える。そんな家庭こそが必要なんだ。
そんな家庭じゃないから、家の外に自分の居場所や自分を認めてくれる相手を探そうとするんじゃねえのかよ? 家の中に自分の居場所と自分を認めてくれる相手がいりゃ、外にそんなもん求める必要もねえよなあ?
自分の可能性を試したいから外に出て行くってんならそれは構わない。止めやしねえよ。自分で自分のケツを拭ける範囲であれば好きにしろ。ただし、他所様をてめえのストレス発散のためのサンドバッグにするってのは、俺は許さない。
『殴りたいのなら俺を殴れ』
リーネに対してもトーイに対してもイワンに対してもカーシャに対してもマリヤに対しても俺はそう言う。だが、その上で、
『他所様を殴るのはやめろ。特に自分のイライラをぶつけるためなんて目的については一切認めない。緊急避難として誰かを命の危険から守るために咄嗟に手が出たってんなら一考の余地はあるが、ストレス発散のためなんてのは断じて許さん』
これだけは譲らない。
だからこそ、家にいる時には笑顔になれるようにしたいんだよ。
そうしてさらに二年が経った。マリヤももう、普通に歩いてしゃべってメシも食って、
「イワンおにいちゃん♡」
とか言ってイワンに抱き付く、
<お兄ちゃん大好き妹>
に育った。そしてカーシャはと言うと、
「トーイは私のだから」
とか言う、ませた女の子になっていた。見た目には俺と出逢ったばかりの頃のリーネよりもずっと大きいな。
『カーシャ、татоとけっこんする♡』
などと言ってくれていた彼女はもういない。血は繋がってなくても父親は父親だし、何より三十五を過ぎた俺なんてこの世界じゃそれこそただの<オッサン>だしな。思春期を迎えたカーシャにとっては違うんだろ。目が見えなくても。つまり見た目の問題じゃねえんだ。
ただ、その所為もあって、
「トーイは私と結婚するの!!」
って公言してはばからないマリーチカとちょくちょくケンカになる。でもなあ、実年齢でもう十五のトーイと五歳のマリーチカとじゃ、さすがに歳がな。
加えて、マリーチカの方は、いささか風向きが怪しくなってきてるようだ。
と言うのも、アンナと旦那の間に子供ができてな。しかも女の子ばっかり二人もだ。
するとどうなるか?
男子で労働力になるユーリイはともかく、マリーチカは、今の父親から疎まれてるらしい。
『実の子じゃないから』
ってな……




