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でもそれで構わない

こうしてカーシャにも、仕事を手伝ってもらってる分の<賃金>を払うようになった。


ただ、うちのマーケットはあくまで麓の村だけで、しかも寡占状態だから、実はトーイに仕事を任せてもカーシャに手伝ってもらっても、売上そのものはほとんど変わらない。かつては俺が一人で稼いでた分を分配してるだけの形にはなってる。


でもそれで構わない。だってそうだろう?


『俺の稼ぎでうちの家庭を成立させてた』


のを、


『トーイとカーシャと俺で成立させるようになった』


だけだからな。その上で、リーネとイワンの稼ぎもある。特にイワンには、正式に、<絵本製作の依頼>がされるようになった。しかも作者として<イワン・アーク>の名前も絵本に記されるようになったんだ。もう収入は、俺と比べても遜色ない。


立派に一人前の稼ぎなんだよ。


加えてイワンは、ただの写本じゃなく、自分なりの解釈を加えて絵本を作るようになった。例えば、


<頭巾ちゃんとキ〇ガイ伯爵>


について、彼は、<キ〇ガイ伯爵>を<悪魔>の差し替えた話を作ってたりもした。だがこれについてエリクは、


「あ~。うん、まあ、俺はあれでも悪くはなかったと思うんだけどよ。客の反応がいまいちでな。やっぱ、<キ〇ガイ伯爵>に戻してくんねえか?」


と言ってきたりした。どうやら、


『<キ〇ガイ伯爵>が最後にむごたらしく殺される』


ってのが求められてるらしい。これはまあ、貴族とかに対する反発が背景にありそうだ。


『ムカつく貴族に制裁が加えられる』


のが必要なんだろう。そのことをイワンに伝えると、


「分かった……」


と彼は応えて、今度は、


『頭巾ちゃんと猟師は助かってキ〇ガイ伯爵だけが死ぬ』


という話に変えたんだ。すると今度は、


「あれは評判良かったぞ! 次からはこれで頼む!」


ってエリクが上機嫌だった。まあ、ぽっと出の猟師はともかく頭巾ちゃんが巻き添えで死ぬってのはさすがにどうかと思うのも少なくないってことだろうな。


で、現在は、


『頭巾ちゃんが乱暴される前に猟師がキ〇ガイ伯爵を殺す』


展開に落ち着いた。うん、だいぶ俺の知ってる<赤ずきんちゃん>に近くなったな。


こっちではまだ、<著作権>ってものがちゃんと確立されてないようだ。そもそも活版印刷だか何だかが発明されてないのかまだ普及してないのかは知らないがとにかく本ってのは一冊一冊手書きで作るものだから、絶対数が少なすぎてわざわざ著作権で守らなくてもそんなに影響がない感じなんだろう。それもあって改変もやり放題ってことか。


そもそも、うちにある<頭巾ちゃんとキ〇ガイ伯爵の絵本>だって、それを描いた作者は元になった話を勝手に絵本にしただけだろうしな。



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