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俺と同じになりたい

トーイは、俺の仕事を継ごうとしてくれてるだけじゃねえ。軽くメシにするためにリーネが焼いてくれたパンを小さくちぎって、カーシャに食べさせてくれるんだ。俺が普段やってるのを真似て。


だからトーイは、『俺と同じ仕事がしたい』だけじゃないんだと思う。『俺と同じになりたい』んだろうな、俺と同じように『家庭を守れる』ようになりたいんだろう。


それがまた嬉しいやら切ないやら。


「ありがとうな」


俺は、素直にそう彼を労う。子供だからって馬鹿にするとか、見下すとか、舐めてかかるとか、そんなのは本当に現実が見えてねえ奴のすることだと実感させられるよ。実年齢じゃまだ六歳くらいのトーイだって、幼いなりに考えてんだよ。自分はどうあるべきか?ってのを考えてるんだって思い知らされる。


そりゃ、経験が圧倒的に足りなくて未熟だし非力だし、大人と同じことができるわけじゃねえ。けどな、だからって何も考えてねえわけじゃねえんだよ。てか、幼い子供の方が手伝いとかしたがったりしねえか? それは興味本位というだけじゃなく、<自分の在り方>について子供なりに考えてのことだって今なら分かるよ。


だが、阿久津安斗仁王(あんとにお)はその辺をまったく分かってなかったし分かろうとしてなかったし分かりたいとも思ってなかった。マジでぶん殴りてえ。馬鹿すぎるあいつをな。


とは言えそれはもう叶わねえ。あいつはもういねえ。だからこそ俺は、自分の経験を活かす。阿久津安斗仁王(あんとにお)の失敗を繰り返さねえ。トーイの想いを尊重する。人として敬う。労う。そしてそんな俺の姿を手本にしてもらいたいと思う。


そうして納品と注文取りを終えて、俺達は家に戻った。坂道じゃ、荷車を後ろから押そうとしてくれた。ただこれについては、万が一荷車が段差とかに引っ掛かって急に後退したりした時に轢かれることになるかもだから、


「ありがとうな。でも、それはトーイの体がもっと大きくなってからしてくれたらいい。今は先導してくれるだけでいい」


と、丁重にお断りさせてもらった。それについても、ただ、


『やらなくていい!』


みたいに頭ごなしに言うんじゃなくて、きちんと説明するんだ。『メンドクサイから丁寧に説明しない』なんてのは、ただの<甘え>じゃねえか。


マジで大人の方が甘えてんだよな。実際は。


トーイも納得してくれて、いや、本当は納得しきれてねえみたいで少し悔しそうにはしてたが、そんな<自分の思い通りにならないこと>についてトーイなりに折り合いが付けられるようになってきてるんだろう。黙って前を歩いてくれたのだった。



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