心変わり
リーネと話す。
「どうだ? リーネは今、幸せか?」
俺がこんな訊き方をしたら彼女が、
『幸せじゃないです』
なんて答えられるわけがないのは分かってるが、俺としても『幸せです』と応えてもらいたいわけじゃない。彼女の表情を確認したいんだ。すると彼女は、
「はい、幸せです♡」
素直にそう応えてくれた。表情にも無理がないし、違和感も覚えない。前世で、<女の嘘>は散々見てきたしな。特に水商売の<営業スマイル>は。分かっちまうんだよ。<営業スマイル>ってヤツは。俺も散々作ってきたしよ。仕事で。
特に女の場合は、商売で媚を売ってる奴で、完全に『金と寝る』奴はともかく、そうじゃなくて上辺だけ愛想よくしてる奴は、こっちが近付こうとすると体が泳ぐんだ。反射的に離れようとするんだよ。
リサも、最初はそうじゃなかった。俺の金と、まあ、<上辺だけの優しさ>を必要としてたから避けるような仕草は見せなかったが、いつ頃からか俺が近付こうとすると体を離そうとするようになった。俺に対する気持ちが完全に冷めてるのがそれで分かる。当時の俺は、それを察していながら気付かないふりをしてたけどな。
リサの心変わりを認めたくなくて。
女房と同じだったんだよ。女房も最初は、俺が近付いても避けようとはしなかった。でもいつしか、俺とは距離を置くようになった。いわゆる<倦怠期>ってやつだと思ってたし、
『夫婦なんてこんなもんだろ』
とも思ってたから気にしないようにはしてたが、考えてみりゃ、『傍にいたくない』なんて奴と一緒に暮らしてて安らげるわけないだろ。想像したら分かるんじゃないのか? 『一緒にいたいと思えない奴と同じ家で過ごす』ことの苦痛をよ。
『それが家族ってもんだろ!?』
ってか?
笑わせんな。
『一緒にいたいと思えない奴と同じ家で過ごすストレスを他者に転嫁して解消しようとしてる』
ような奴らがホザく<家族論>になんざなんの値打ちがある? お前が感じてる<一緒にいたいと思えない奴と同じ家で過ごすストレス>をぶつけられなきゃならねえ道理が他者にあるとでも思ってんのか? お前をこの世に送り出したのはお前の親であってそれ以外の人間じゃねえんだよ。自分がこの世に存在することによって生じるストレスについてお前自身の中だけで処理できねえなら、お前の親にぶつけろ。他者にぶつけんな。なんの関係も責任もねえんだよ。
というわけで、リーネがそういうストレスを抱えてねえか、確かめたんだ。イワンやカーシャを引き取ったのは俺の独断だったしな。それについて不満を抱いてるなら、まぎれもなく俺の責任だ。




