ワンチャンあるかも
そんな感じで<近親相姦ものの絵本>という大変なブツではあったものの、俺は金を用意し、普通に買い取った。
世の中にゃそれについて、
『リーネにそれを読ませて自分のことを意識させようと考えてる』
とか勘繰る奴もいるだろうが、いや、そんなこと考えるってそれ、お前の性癖じゃねーか。話的には、
『そんな感じで俺とリーネの間に動揺が生じてオタオタする』
ってなるのが面白いのかもしれねーが、こっちゃそんなもん知ったこっちゃねえよ。悪いが俺はまったくそんな気にもならねえし、
「ありがとうございます!」
って喜んで受け取ってくれたリーネも、ただの<教材>としか見てねえのがよく分かったわ。まるっきり平然としてるしな。
そんな形でワンチャンあるかもって考えんのは勝手だけどよ、それを他所様に当てはめんじゃねえ! 気持ち悪い。
こちとら、女にゃもう夢も希望も持ってねえんだ。こっちに都合のいいお人形じゃねえのはよく分かってる。だからもうただの<人間>としか見られねえんだよ。
リーネもただの人間だ。性別がたまたま<女>ってだけのな。それがどうした。女の乳や尻や穴にしか興味のねえ奴は勝手にそれを追っかけてろ。俺を巻き込むな。
そんなわけで別に何か盛り上がる展開もなく、やっぱり淡々と毎日が平穏無事に過ぎていく。それが何より楽しい。
それにな。同じように毎日が過ぎてるように見えても、一日だって『まったく同じ』ってこたあねえんだ。そう感じるなら、そりゃお前の感受性が鈍いってだけだろ。毎日毎日、ちょっとずつでも違ってるんだよ。
『今日はパンの出来がいい』
『今日は久しぶりにまたネズミが獲れた。血のプディングと干し肉じゃない肉が食える』
『昨日は外の風呂に氷が張ってなかったからこのままあったかくなっていくかと思ったら今日はまた氷が張ってた』
『トーイがまたおねしょをした。おねしょをしてしまった自分自身が悔しいらしくて自分の頭をごつんごつん殴ってたのを止めた。悔しい気持ちは大事でも、自傷行為は好ましくない』
『リーネとトーイが新しい絵本の単語を全部覚えた。かなり早いんじゃないか? 大したもんだ』
等々な。
一日だって同じ日はねえんだよ。しかもリーネとトーイはまだ子供だ。子供は毎日毎日成長していく。昨日知らなかった言葉を今日覚えてる。なんてこともある。そんな様子を見てるだけでも飽きないぜ。
でも、だからこそ思うんだ。
『ゆかりのこともこうやって見てりゃよかったな……』
ってよ……
『後悔先に立たず』とは、よく言ったもんだぜ……




