抜け目ない奴だな
エリクが読んでくれたのを、俺は布に炭でメモしていく。こうして俺がリーネとトーイに読み聞かせ、文字と単語を覚えてもらうわけだ。
前世じゃそれこそ小学生どころか保育園でもやってるところはやってるようなことを、ここじゃやってないし、やらせようという発想もないんだ。とにかく家畜として奴隷として働いてくれりゃそれでいいだけだしな。
加えて、
『自分の親がやってくれなかったことをなんで自分が…!』
って思いもあるだろう。俺の場合は前世の記憶があるから逆にまったくやらせないというのは不安もあったりする。とか言って、前世じゃ女房に任せっきりだったけどよ。いい加減なもんだ。
でもなあ、俺以外の誰もやってくれないとなると、なんかな。落ち着かなくなってくるんだよ。不思議なもんで。
これもあれかな。
『自分がやらなくても誰かやってくれるだろ』
って心理かな。『自分がやらなくても誰かやってくれるだろ』って思いたいけどマジで誰もやってくれないとなると自分がやらずにはいられなくなるってことで。
それがどうかは分からないが、とにかく<頭巾ちゃんとキ〇ガイ伯爵>を持って……
とその前に、
「ところで、子供に読み書き教えんのなら、ペンとインクと紙も必要なんじゃねえか?」
エリクがそんなことを言って、ペンとインクと紙を出してきた。
こいつ、それを見込んで仕入れてきやがったな……!?
ちゃっかりしてるとは思うが、まあ、そういうもんだろ。
「抜け目ない奴だな」
言いながら俺は、さらに銀貨十枚を払った。
「まいど」
エリクがニヤリと笑う。
高いのは高いが、正直、まだまだ量産できるわけじゃないからな。こんなもんだろ。紙漉きの技術でもありゃあそれで儲けられそうなものの、残念ながら俺にはそっちの知識はない。とは言え、鍛冶でもこうして十分に食っていけてるんだから、それでいいけどよ。
そうだ。村の連中と慣れ合って村で暮らそうともしない<偏屈者>がそれなりに生きていけてるのは、俺が鍛冶屋だからだ。他に代わりがいねえから村の連中も俺に頼るしかない。
聞くところによると隣村にも鍛冶屋はいるらしいが、そっちは当然、隣村の連中の注文を優先して受けるから、こっちにはなかなか回ってこない。
鉄器は、まともに畑仕事をするには欠かせないものだ。そしてこれからはきっと、読み書き算術がさらに重要になってくるだろう。代書屋が成り立ってるのもそういう背景があるからだし。
リーネとトーイにその技能があれば、たぶん、二人にとって助けになると思うんだ。




