英雄的行動
『暴漢に立ち向かう』
って感じの<英雄的行動>ってやつは、なるほど称賛を浴びて持て囃されたりもするだろう。けどよ、よく考えてみな。それを称賛し持ち上げる奴のほとんどは、
『自分じゃ何もしない』
奴らなんだぜ? 自分じゃ何もしないで誰かが助けてくれるのを期待してるだけの奴らなんだぜ? そんな奴らに称賛されて持ち上げられて<いい気分>になってる奴って、<利口>だと思うか?
社会の中の<圧倒的多数の弱者>にいいように利用されて、でもちょっと持ち上げられて調子に乗ったりしたら今度はボロカスに言われたりするんだぜ? ネットの匿名の向こうからな。
承認欲求を満たされたいから英雄的行動を取るなんてのは、それこそバカのすることだとは思わないか?
俺は思うね、<逆張り>とかなんとか言われたって関係ねえ。自分じゃ何もせず誰かに助けてもらうことを期待してるだけの奴なんざ、命かけてまで助ける必要があるかよ。
ただ、そういうことを抜きにして『守りたい』って思える相手もいたりするよな。今の俺にとってはリーネとトーイだ。リーネとトーイのためなら、損得関係なしで助けたいと思ってしまうかもしれない。自分が死ぬかもしれない状況になったら見捨てて逃げるかもしれなくても、少なくとも<自分が死ぬかもしれない状況>じゃないなら助けたいと思う。
だからこそ、
『血の繋がってない子供なんて愛せるわけがない』
とか言う奴は、<正義>なんてゴミみてえな戯言は口にせず、<英雄的行動>なんざ鼻で笑わないとおかしいよな。自分と血が繋がってない相手とか守りたいとも思えねえんだろ? だったら、命張って赤の他人を助けようとする行為とか、称賛したらおかしいじゃねえか。
『血の繋がってない子供なんて愛せるわけがない』ならよ。
俺は、血は繋がってないがリーネとトーイは守りたい。だから『血の繋がってない子供なんて愛せるわけがない』とは、今は思わない。かと言って、<正義>なんて妄想を掲げたいとも思わねえ。俺は非力だ。俺の手は小さくて短くて、ブルーノまでは届かなかった。その事実を見ずに、
『今度こそ助けたい!』
なんて思わない。そんなことに囚われたら、リーネとトーイを守れないかもしれねえ。
ただ、もしかしたら、俺の手の届くところに来てくれるなら、俺の力の及ぶ範囲でなら、あと一人か二人くらいならとは、思わなくもない。
でもまあ、積極的にとは思わないけどよ。それでも、俺の家の前で行き倒れてるのがいたりしたら、助けちまいそうな気はするな。
あくまで、その程度だ。ブルーノのような事例については、今後はもう干渉しない。口も出さない。気にもかけない。
またリーネに心配かけるのは嫌だからな。




