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使えない子供が死んだって何とも思わない

『俺がもっと強く言ってれば、あのブルーノって子は助かったんだろうか……』


帰り道。荷車を牽きながら坂を上りながら、途中の水場で水を汲みながら、俺は何度もそんなことを考えた。


だが、答えは出ない。『たられば』に意味なんかない。助かったのかもしれないが、あの男の態度を見てても分かる通り、


『使えない子供が死んだって何とも思わない』


のがここの連中の<普通の感覚>だ。だから聞く耳なんか持たないんだ。あのブルーノって子も、墓を作ってもらえればいい方で、下手すりゃ畑の肥やしにされたっておかしくねえ。


そういう世界なんだよ。


昔の方がよかっただ? 厳しい社会の方がいいだ? 笑わせんな。そんな社会で必ず自分が生き延びられる方になれると思ってんのか? 俺だって死ななかったのはたまたまだ。たまたま運が良かったから死ななかっただけだ。


体調が悪くても休ませてもらえず、十歳くらいで畑で働かされてる途中で熱中症で死んで、それで畑の肥やしにされるような人生が羨ましいのか?


ふざけんな……!


ふざけんなよ……!!


腹ん中がギリギリと捩じられるような気分を味わいながら家に帰り着くと、


「おかえりなさい♡」


「おかえり……」


って出迎えてくれたリーネとトーイをまとめて抱き締めてしまった。


「ト、トニーさん……っ!?」


リーネが焦った感じで声を上げて、でも、すぐに、


「……なんか、あったんですか……?」


俺の様子に察するものがあったみたいで、そう訊いてくれた。けれど俺は上手く説明できなくて、


「……ごめん……ごめん……ありがとう……生きててくれてありがとう……」


としか言えなくて……


子供が死んだくらいでこんな風になる奴は、ここにはほとんどいないだろう。俺だって、前世の記憶がなければここの奴らと同じだったと思う。


けどな、俺には前世の記憶があって、前世に悔いを残してきて、ここでリーネとトーイに出逢って、二人のおかげで俺が俺でいられて……


そういうのが頭を巡ってしまうと、抑えきれなかったんだよ……!


だからこの日は、いつも以上に二人と一緒に過ごした。大したこともできないが風呂を沸かしながら料理も手伝って、夕食を三人でゆっくりと食べて、風呂にもいつも以上にゆっくりと浸かった。


「トニーさん……つらいことがあったんですね……」


トーイを抱いて湯に浸かりながら、リーネがそう口にする。それに対して俺はようやく、


「村で、子供が畑仕事をしてる時に死んだんだ……俺はその子の具合が悪いのに気付いてたのに、助けてやれなかった……それが悔しくてよ……」


打ち明けることができたのだった。



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