表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
155/398

自分の体裁のため

『愛してる』


俺のその言葉に、リーネはハッとしてそれで少し目を泳がせた後に、


「はい……私も、トニーさんのこと……愛しています……」


と、笑顔で言ってくれたが、俺には、


『ああ……まだちょっとためらいがあるな……』


と感じとれてしまった。<照れ>じゃなく、本気の動揺だ。俺の言葉の真意を測りかねて、そして自分がどう答えればいいのかを頭の中で猛烈に思考した上でこの時点での最適解と彼女が判断した言葉を返したんだと思う。


でも、今はそれでいい。たとえそうやって俺に媚びるためのものであっても、


『たとえ媚びてでも一緒にいなくちゃ』


と思ってくれてるだけでも上等だ。


『なんでそれが分かる?』かって? 百年も人間として生きて人間を見てきてそれで分からなかったらむしろどうかしてるって思うけどな。


その上で、これがいつしか、彼女が本心から素直に、


『愛してます』


的に応えてくれたらそれに越したことはないものの、そんなこと自体、俺が期待するのはおこがましいだろ。


「ありがとう……リーネ。そう言ってくれるだけで俺は頑張れるよ……」


彼女の頭をそっと撫でながら、俺はそう応えた。するとそのあとすぐ、眠りにつけた。そしてまたあの<悪夢>みたいなのは見なかった。


ただし、夜中にまた、トーイが呻き声、と言うか<夜泣き>と言った方がいい感じで泣き出したのを、


「よしよし……心配要らん……もう大丈夫だ……」


俺も寝惚けながらそっと体を撫でてやったりもしたけどな。当面の間はこういうことも続くだろう。


ゆかりの時は、夜泣きとかしてても、全部、女房に任せっきりだった。そんな自分を今じゃ情けないと思うものの、前世の俺はそれを当然のことだと思ってた。女房のことを愛してなかったから、ゆかりの夜泣きに悩まされてるのを労わろうって気にもならなかったんだ。


自分で選んで結婚した相手を労われないなんて、マジで愛してなんかいない証拠だとしか思えないな。それでなんで結婚したんだ? って言ったら、そりゃもう、


『自分の体裁のため』


でしかないだろ。


んで、自分の体裁のために結婚して子供作ったらその子供に嫌われて、


『親ガチャ外れた』


とか言われるなんざ、間抜けの極みだろ。まさに俺だ。


そして今の俺は、他でもない俺自身のために、リーネとトーイには幸せになってほしいと思ってる。それは俺自身が救われるためという<エゴ>以外の何物でもないが、リーネとトーイが幸せになって俺も救われるんなら、それに越したことないじゃないか……



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ