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<親バカ>じゃなくて<バカ親>

『トーイを、リーネを大切にできる男に育て上げて、それでくっつけたらどうだ?』


風呂に入ってのんびりすると、そんな愚にもつかねえ馬鹿な考えが頭をよぎる。


これも俺の勝手なエゴだよ。だから実現なんてしなくても構わねえ。ただ、リーネのことを大切にしてくれる奴に会わせてやりたいじゃないか。前世じゃ実の娘に対しても考えもしなかったそれが頭をよぎるくらいには、今の俺が<親バカ>になれてるってことだと思う。


前世の俺は<親バカ>じゃなくて<バカ親>だったよ。間違いなく。


自分の勝手で娘をこの世に放り出しておいて世話は女房に丸投げで関知せず、そのクセ『俺を敬え』とか言ってたんだからな。俺自身の父親も似たような奴だったが、尊敬してたか? 『俺をこの世に送り出してくれたありがとう』とか思ったか? 他人に訊かれりゃ体裁を取り繕うために『今では感謝してます』くらいは言ったかもしれねえが、腹ん中じゃそんなこと欠片も思ってなかったじゃねえか。


それが答だろ。


あたたかい風呂に浸かってほんのりピンク色に頬を染めている(暗くなってきてるからたぶんだが)リーネの表情も穏やかで、しかもトーイも表情が柔らかい気がする。


それを見ても、


『ああ、風呂を作ってよかったな』


と思った。もっとも、沸かすのに半日仕事じゃ、さすがに毎日ってわけにもいかないだろうけどな。


なんか、いい感じに<湯沸し器>を作れたらなあ……


てのも、まあ、気長に考えりゃいいや。


ふもとの村の連中の多くは死んだ。アントニオ・アークとしての両親も、リーネの叔父夫婦も、トーイの母親も。


多くの人間があんな形で死んで、自分の実の両親や親族が死んだってのに、こんな呑気にしてられるってのはおかしいと思うかもしれねえが、本気で『殺してやりたい』『死んでくれ』とか思ってたらな、それが実の両親でも、マジで、


『解放された』


って気分のが先に立って、悲しいとかなんとかは思わねえもんなんだよ。綺麗事ばっかり並べる偽善者の御託なんざ、クソくらえだ。


実際、あいつらが生きてたら、今後、俺達にどんな形で絡んできたか分かりゃしねえ。死んでくれた方がよかったんだ。


ただ、俺の両親やリーネの叔父夫婦については、どんな人間か分かってたからこんな気分にもなれるが、トーイの母親だけはな……


トーイの母親もここの連中の一人だったわけだからロクでもない人間だった可能性はある。あるが、トーイ自身が母親を慕ってる様子もあるからな。俺の両親やリーネの叔父夫婦と同類だと決め付けるのも、違うよな……



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