94.とうさんとけいび
夜ー。俺は転移魔法陣から王城に向かっていた。
今夜はカーロス国王の寝室の警備担当だ。今までは国王の信頼がある隊長や副隊長、ダスティンさん辺りしか警備をさせてもらえていなかったが、最近になって俺も警備に加わるようになった。光栄なことだ。
ただ、カーロス国王はセクハラが酷い。容赦なくアリスとの営みについて質問してくるし、国王だからこっちも拒みづらい。なかなか面倒な人なんだよなあ。
そして今日は父さんと一緒に警備。ちょっと楽しみだ。交代で仮眠を取りながらの警備になるから、あまり話したりはできないんだけどね。
「ようルーシャス、良い夜だな」
「やあ父さん。めっちゃ曇ってるけどね」
なんでもない親子の会話。だが父さんは少し嬉しそうだ。息子と同じ仕事ができることは嬉しいのだろうか。俺にも子どもができたら分かるのかな。
「そういやルーシャス、お前のところには例の人間の魔獣は最近現れてないのか?」
寝室の扉の前に座り込み、父さんが小声で話しかけてくる。いや寝ないのかよ。
「最近は現れてないね。高校の卒業試験の時に声だけ現れたのが最後かも」
「そうか......ここ数年、奴は不気味なぐらい姿を見せなくてな。何を企んでいるのか......」
誰のところにも現れていないのか。まだ力を溜めているのか、何かタイミングを狙っているのか......。いずれにせよ、いつ現れるのか分からない魔獣対策は万全にしておかないと。
「そういえば父さんは人間の魔獣と戦ったことは無いの?」
「俺は無いな。そもそも今問題になってる奴の前に人間の魔獣が現れたのが60年前だからな。俺のじいさんが討伐に一役買ったらしいが」
あ、あれ父さんのおじいさんなのね。てことは俺のひいじいさんなのか。この世界は若くして子ども産むから時系列が分からなくなるな。
「ていうかなんだその何回か戦ったような口ぶりは?お前だって例の魔獣以外は知らないだろ?」
「いや、それがそんなことはなくてですね......」
俺は父さんに200年前と60年前に行って人間の魔獣を討伐したことを報告した。
そういや言ってなかったな。俺が「暁の剣士」だってこと。
「はあ!?お前が暁の剣士!?」
「実はそうなんですよお父さん。参っちゃいますよね、自分の息子が伝説になっちゃって」
「なんでそんな口調なんだ......いやそんなことはどうでもいいが、そうなると俺が教えた剣をお前が過去で教えて、俺はその剣を教わったことになって、ええっと......」
「父さん、そのくだりもうやったから。考えない方が良いよ。タイムパラドックスタイムパラドックス」
「あんまタイムパラドックスを2回繰り返すことないだろ!?そんな軽いもんなのか!?」
なんか珍しく俺がボケに回ってるな。流石俺の父親、ツッコミもいけるのは偉いぞ。いや誰目線。
「しかし、お前が倒した人間の魔獣は森の中心にいたんだろ?なら今回の奴も同じ場所にいるんじゃないのか?」
「うーん、それがどうもいないみたいなんだよね」
もちろん父さんが言うように俺も森の中心に奴がいるんじゃないかと探しに行ったことはある。
だけど、森の中心には誰もいなかったし何も無かったんだ。魔力の根源は大きな岩みたいな形だったから、あれごと持って移動したのかもしれない。
どうも奴は俺の行動を把握してるような気がするんだよな。今まで奴が現れたのは、夜寝る前や休み時間等俺が油断している時か、高校の入学試験、卒業試験の時。奴のことが意識から抜けている時を狙われているような気がする。
そして恐らく、奴は心が読める。高校の休み時間に声だけ現れた時に、俺が転生者だということを読まれた。それを利用され、エリック先輩に疑われたこともある。
今まで俺が倒してきた人間の魔獣は力の使い方か頭脳のどちらかが足りていなかったが、今回の奴は両方とも持ち合わせているように思える。
だからエリック先輩に頼んで転移魔法陣を作って貰ったんだけど、あれも本名と顔を知らないと発動できない。
のんびり暮らしているが、正直言ってかなり油断ならない状況だ。せめて奴が何を目的にしてるのかが分かればなあ......。
「まあ俺とお前なら多少強い敵が来ても大丈夫だろう。てことで俺は先に仮眠を取る。2時間後に起こしてくれ。警備は頼んだぞ」
そう言うと父さんは座ったまま眠り始めた。寝付き良いな。父さんの言う通り、俺と父さんなら強い敵が来ても対処できる。気は抜かないが、自信は持って警備に着こう。
「そんなに食べられないぞ......なんて贅沢な......」
父さんが寝言を言い始めた。えらく幸せそうな夢を見てるな。
「もずく、もずく、もずく......どこを見てももずくでいっぱいだあ......」
もずく!?え、もずく!?そんな贅沢かね!?
父さん、そんなにもずく好きだったんだ。今度送ってあげようかな。
こうして、久しぶりに親子で過ごす夜の時間は過ぎていった。
ルーシャス「かなり終盤に差し掛かってきてるのに随分のんびりした話が続くな」
アリス「危機感を持っているのは私たちだけかもしれないですわね。作者はどこまでちゃんと書くつもりなんでしょう?」
ルーシャス「まあそもそも敵がずっとふざけてるからなあ......ほんとにちゃんと戦わせてくれるんでしょうね?」
多分!多分絶対!絶対多分!戦わせます!




