「もう、陛下……、無理強いは駄目ですよ?」―制服デート編⑥―
「リラックスしていつも通り報告してくだされば大丈夫よ」
マドロールはそう言って、学園の長たちへと笑いかける。
和やかで優し気な笑みだった。内心では「学園都市楽しい!」という興奮しかないわけだが、皇妃としてきちんと対応しようと取り繕っている。
「お前ら、マドロールが質問したら全て答えろよ」
「陛下、そのように言わなくても皆さん答えてくださいますわ。そんな言い方したら駄目ですよ?」
「ああ」
……学園の長たちは、皇帝相手に笑みを浮かべたまま意見をする皇妃とその意見をすんなりと受け入れている皇帝を見て驚いていた。
「まずは陛下、報告を聞くのですよね? 私が気になったことがあればその後質問しますからそのお仕事をまずは終えましょう」
「ああ。……おい、お前ら報告しろ」
ヴィツィオはマドロール最優先なので定期報告よりも彼女が気になることを質問する場の方を優先してそうだったが、マドロールに言われて報告を先に聞くことになった。
報告者は普段はヴィツィオの部下である文官に報告をしているので、こうして皇帝本人に報告することに緊張した面立ちである。
どこか緊迫した雰囲気が黙っているのは、彼らが一同に皇帝への報告という大仕事を前に普段通りではいられないからだろう。
さて、そんな緊迫した報告会の中でマドロールはと言えば、
(こうやって報告を聞くヴィー様も本当に素敵だわ。その横顔を見ているだけでなんて幸せなのかしら。報告に頷き、不備があればすぐに指摘して……! もう本当にヴィー様って感じがして、かっこいいわ。雰囲気からしてもう素敵! 私に向けるようなものとは違って、孤高の皇帝という感じで……でもヴィー様は私には笑みを浮かべてくれて、可愛くてかっこよくて!! あぁ……好き)
今日もヴィツィオのことを考えて、内心大興奮していた。
こんなに孤高の皇帝の雰囲気を漂わせているヴィツィオが自分にだけ優しくて甘いだなんてマドロールは本当にヴィツィオを好きだなという気持ちでいっぱいである。
こうしてヴィツィオが学園都市に連れてきてくれたことも、これから制服デートが待っていることも踏まえてマドロールはにやけないようにするのに必死であった。
ちなみに普段から皇帝夫妻の傍によくいる侍女と騎士たちは、彼女がきゃーきゃー騒ぐのを我慢していることを知っているのでほほえましい気持ちになっているものである。
「マドロール、報告は全部聞いた。何か聞きたいことがあるなら聞け。なんでも答えさせる」
「もう、陛下……、無理強いは駄目ですよ?」
マドロールはヴィツィオにそう言って笑いかけると、学園の長たちの方を見る。
「少し質問をさせていただくわね」
この学園都市という場所はマドロールにとって興味深いものである。なので色々と質問は浮かび上がるので、問いかける。
皇妃であるマドロールからの問いかけに学園の長たちは緊張した面立ちのまま、答えていく。
マドロールの柔らかい笑みを見ていると、彼らも緊張が収まってきた様子である。
次々と質問をしながら和やかに会話をしている間、ヴィツィオは放っておかれていた。
というか、マドロールの後ろでその様子をじっと見ていた。
これだけ皇帝を待たせられるのも、溺愛されている皇妃の特権であろう。
「陛下、お待たせしました」
「ああ」
「つい話が弾んでしまってごめんなさい。陛下を待たせてしまいましたね」
「気にするな」
そんな会話を交わした後、制服に着替えるために宿へと戻ることにする。
去って行こうとする皇帝夫妻に一人の学園長が問いかける。
「陛下、皇妃様、これからの予定はどうなっておりますか? こちらの方でもおもてなしは……ひっ、申し訳ございません」
「陛下、睨んだら駄目ですよ? こちらの方たちは私たちをおもてなししてくださろうとしていたんですから。陛下、私はあなたが笑っていてくれている方が好きですわ」
「ああ」
学園長の言葉にヴィツィオが睨みつけていたので、マドロールが諭す。そしてマドロールはその学園長の方を向く。
「ごめんなさいね。陛下ってば私と早くお出かけしたくて仕方がないみたいで……。これから陛下とお出かけしますので、おもてなしは不要ですわ」
「しょ、承知しました。しかしおでかけとは……街の案内もこちらで出来ますが」
「ふふっ、ありがとう。でも大丈夫よ」
マドロールは学園長とそんな会話を交わす。
学園都市側からしてみれば、皇帝夫妻のおもてなしも十分に出来ずに案内もしない状態でいいのだろうか…となっている。しかし皇帝夫妻はお忍び制服デート目当てなのでそのあたりは不要である。
……皇帝夫妻がその場を去った後、騎士の一人から「制服デートのために学園都市に来たこと」を聞き、彼らは大変驚くことになるのだった。




