「ヴィー様は私のこと大好きですもんね!」―制服デート編⑤―
「わぁ、大きな建物が多いですね。貴族の住むお城や屋敷はなさそうですけど……、ああいう大きい建物って全部教育機関ですか?」
学園都市に辿り着いたマドロールは、目を輝かせていた。
マドロールは嫁ぐまでは箱入りのお姫様だった。そして嫁いだ後は大国の皇妃としてそれはもう大切に囲われて生きている。だからこそこういう学園都市と呼ばれる場所にやってくるのは初めてである。
その場所はマドロールがこれまでヴィツィオに連れて行ってもらったどの場所とも雰囲気が異なる。貴族は城や屋敷に住まうものであるが、この街にはそれがない。
(学校と一口に言っても、前世の学校とは見た目も全然違う。この世界の学校って私は初めて見たわ。教会とかで子供たちに勉強を教えていたりするのは知っているけれど、これだけ大きな教育機関はこの世界だとそこまで多くないもの。それにしてもどの建物もヴィー様にとっても似合いそう。制服もそれぞれ違うだろうし、どんな制服だろうともどんな場所だろうともヴィー様の輝きはきっと失われないのよね)
立ち並ぶ建物。そして歩いている制服姿の学生たち。それを見ているだけでマドロールは楽しくて仕方がなかった。ヴィツィオならばきっとどれでも似合うのだろうなとそれを考えただけで妄想が止まらないものである。
「ああ」
「どれも素敵な外装ですよねぇ。やっぱり生徒たちが集まる教育機関というのは見た目も大事ですよね。それにしてもどこでもヴィー様は似合いそうです」
「そうか」
にこにこしているマドロールに、ヴィツィオは短く返事をする。
「マドロール、宿に行くぞ」
「はい! どこに泊まるんですか? ヴィー様の選んだ宿、どんなところか楽しみです」
それからマドロールとヴィツィオは仲良く腕を組んで、宿へと向かった。
今回はお忍びで来ているので、泊まる宿も最高ランクの宿というわけではない。とはいえ、ヴィツィオはマドロールを下手な所に泊めるつもりはないので、事前に評判を調べた宿を選んでいる。
「まぁ、黄色い屋根の素敵な宿ですわね」
ヴィツィオがマドロールを連れてきたその宿は、少しだけこじんまりとしている黄色い屋根の宿だった。
部屋数は少ないものの、サービスのきちんとしている優良宿である。
プライドの高い貴族の女性などだとこういう宿を案内されると激高するだろうが、マドロールはそもそもヴィツィオが選んでくれた宿というだけで既に大満足なのでにこにこしている。
お忍びなので、護衛や侍女たちはひっそりと二人についてきている。周りの建物を固め、皇帝夫妻に何かないようにと細心の注意がされているのである。
「わぁ、ヴィー様。この宿の部屋いいですね!!」
しばらく泊まる宿の部屋。二人用の一つのベッドのおかれたそこそこの広さの部屋である。
「このカーテンの柄、可愛いですねー。こういう花柄って可愛くて好きです。あといつも一緒に寝ているベッドよりもちょっと小さめなので、ヴィー様に密着出来そうです! おかれている小物もいい感じですし、宿に泊まるとなんだかワクワクしますね!!」
基本的にマドロールが帝都の外に出る場合は、貴族などの屋敷に泊まることが多かった。こういう一般的な宿に泊まるのがマドロールにとっては楽しいようである。
「こうやってこういう宿に泊まるの、前世以来だなぁって。なんていうか、凄く楽しいです」
「そうか。なら良かった」
「ヴィー様、連れてきてくれてありがとうございます! 私が制服デートしたいなんて我儘を言ったらすぐ想像以上のことで叶えてくれようとして本当にヴィー様って最高です!」
マドロールはきゃっきゃっとはしゃぎながら部屋の中を見て回っている。あまりにもはしゃいでいて足元を見ていなかったのか、躓く。
「あ」
マドロールがよろけそうになれば、すぐにヴィツィオが支えた。
「マドロール、はしゃぐのは良いが周りは見ろ。マドロールが怪我をしたら俺は嫌だ」
「はい! ヴィー様は私のこと大好きですもんね! ヴィー様を悲しませないためにもちゃんと怪我しないように気をつけます!」
マドロールはヴィツィオの言葉に嬉しそうに笑った。
そしてそのまま、二人してベッドの上に寝転がる。マドロールはヴィツィオの顔を至近距離で見つめられて今日も幸せそうだ。
「ヴィー様、学園の方との話し合いは明日なんですね?」
「ああ。マドロールが疲れているなら日程ずらす」
「それは大丈夫です! 長距離移動は疲れはしますけど、私結構ヴィー様に寄りかかって寝てましたし。逆にヴィー様は疲れてませんか?」
「大丈夫だ」
「なら、良かった。話し合いって何をするんですか?」
「報告を受けるだけだ」
「そうなんですね。じゃあ私は黙って聞いてますね。学園都市については資料で読んだ知識しかありませんし」
「何か聞きたいことや気になる点があれば言え」
「そうですね。気になることがあったら言いますね! それでその報告を受けた後はデートですね。制服デート!!」
「楽しそうだな」
「はい! もう妄想しているだけで楽しすぎて、このままだと学園の方たちと話している最中もだらしない顔してしまうかもしれません……」
「別にそれでもいい」
「もー、ヴィー様ってば本当に甘やかし上手ですね。でも私、ちゃんと皇妃としてキリッとした表情するように努めます!」
元気よくマドロールが宣言すると、ヴィツィオは笑った。




