「とっても素敵な夢を見たのです」―制服デート編①―
「はっ」
その日は予定がそこまで詰まっていなかった。
皇妃として社交をしたり、書類に目を通したり――、マドロールは忙しくしているわけだが、時折昼寝をするぐらいの余裕はあった。
というよりマドロールは「ヴィー様のために」と頑張りすぎてしまう一面もあるので、時折ヴィツィオに休まされていた。
そうやっているうちに時折、お昼寝時間が出来上がっている。ちなみに今回はマドロール一人でゆっくりとお昼寝していたが、ヴィツィオと一緒にお昼寝することもある。
「マドロール様、どうかなさいましたか?」
侍女の一人が、飛び起きたマドロールに声をかける。
「素敵な夢を見たの」
侍女の言葉にマドロールは頬に手を当てながら、嬉しそうに口にする。
あまりにも幸せそうな表情に、仕事中だと言うのに侍女たちの表情も緩みそうになる。
マドロールとヴィツィオの傍に控えていると、ついつい笑みをこぼしてしまいそうになるものだ。
「まぁ、どのような夢ですか?」
「あのね。この前、ヴィー様に制服を着ていただいたでしょう?」
「そうですね。陛下もマドロール様も制服が大変お似合いでした」
「よね!! ヴィー様は本当にどんな服でも着こなしていて、流石、ヴィー様って感じがしたわ。ヴィー様が学生生活を送っていたらって妄想しただけで本当に幸せで仕方なかったもの」
「それは良かったですね」
「ええ。本当にヴィー様の制服姿をこの目に焼き付けることが出来て最高だったわ」
マドロール付きの侍女たちは、ヴィツィオのことを興奮したように語るマドロールには慣れっこなので楽しそうに話を聞いている。
つい先日、マドロールはヴィツィオに制服を着て欲しいと望んだ。
……『暴君皇帝』相手にそのような馬鹿げたお願いをするなど、他の者ならばまず出来ない。ヴィツィオは基本的に合理的な思考をしていて、無駄なことはしない。ただしマドロールが頼むなら別である。
マドロールのお願いならば、他の者に言われれば無駄だと切り捨てることも行うのでヴィツィオがどれだけ彼女を溺愛しているのか伺えることだろう。
「それでマドロール様、制服を着た陛下を思い出して幸せなのは理解できましたが……、どのような夢だったのですか?」
「私とヴィー様が学園生活を行っている夢だったの!」
「マドロール様と陛下が学園生活ですか……?」
小国の王女であったマドロールと、皇帝であるヴィツィオが学園に通うことなどない。
しかしそこは夢なので、非現実的なことも可能にしているのだ。
よっぽどマドロールはヴィツィオの制服姿を気に入って仕方がなかったのだろう。その結果、夢にまで出てきてしまったらしい。
「そうなの。ヴィー様がね、学園に通っていて。夢だったから私とヴィー様が同年代のクラスメイトだったの。それだけでやばいわよね? ヴィー様が同じ教室にいるなんてすごいことだわ」
「そうですね」
「それで隣の席で、授業中でも私はヴィー様のことをずっと見ちゃって」
「マドロール様らしいです」
「教師の方に注意されてしまったのだけど、ヴィー様が「マドロールに注意するな」なんていってて。不遜で素敵なヴィー様がかっこよすぎてっ!!」
「皇妃であるマドロール様に注意をするなんて不敬ですからね」
「夢の中ではこう学生だったから私とヴィー様って結婚しているわけとかではなかったのだけど、なんていうか、婚約者的な感じだったのかしらね。周りから認められている感があったわ。夢の中だったから、貴方たちが同級生として出てきていたわ」
マドロールは楽しそうに夢の中の世界のことを語る。
夢はあくまで夢なので現実とは異なる。でもあまりにも楽しかったのだろうマドロールはにこにこしている。
「まぁ、私たちも出ていたのですか?」
「ええ。出ていたわ。ふふっ、夢って本当に不思議で面白いわよねぇ。夢の中でもヴィー様に出会えて、私はもう凄く楽しかったの。それにしてもヴィー様の制服姿って本当に素敵だなって……」
「本当にマドロール様は陛下が大好きですね」
「ええ。大好きだわ。ヴィー様って本当に最高なんだもの! はぁ、本当に素敵な夢だったわ!!」
マドロールは、高揚した様子を見せている。
(ヴィー様が私にだけ笑ってくださっていて、不遜で、かっこよくて。はぁ、もう最高の夢だった。ヴィー様にまた制服着ていただこうかしら? ヴィー様の制服姿ならば幾らでも見たいもの)
そうやってマドロールは妄想を繰り広げる。
ベッドの上で足をばたつかせて、妄想の中のかっこいいヴィツィオに興奮した様子を見せている。
マドロールはヴィツィオが大好きなので、その妄想だけでこれだけ楽しそうなのであった。
そうしているうちに、少し時間が経過しヴィツィオがやってくる。
「マドロール。何をしているんだ?」
一人バタバタしているマドロールに、ヴィツィオは問いかける。
「ヴィー様!! とっても素敵な夢を見たのです。それでですね、妄想していたら最高に楽しくなってしまって!!」
ベッドから起き上がったマドロールはヴィツィオに向かって元気よくそう言った。




