表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
捨てられる予定の皇妃ですが、皇帝が前世の推しだと気づいたのでこの状況を楽しみます! 関連話  作者: 池中織奈


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/301

「この出来なら良い結果につながるだろう」―皇太子視察編⑬―

 その売れない絵描きである青年の名は、ギリッグ。


 絵描きとして活動しだして二年ほど。平民の出である彼はまだこの国でも名を知られていない。

 ギリッグがヴィダディたちの提案を受け入れたのは、自分よりも若い少年二人が自分の絵に少なからずの興味を抱いてくれているというのが嬉しかったからである。



「絵だけでは生計を立てられないものなのか?」

「そうだね。僕も他の仕事をいくつかしているんだ」

「そのような暮らしをしている絵描きは多いのか?」

「そうだね。よくある話だよ。そういう暮らしが嫌なら全うに生きていけばいいと、よく言われる。でも僕は絵を描くことが好きだからそれで食べていけるようになりたいなぁと思うよ。食べていけるようになったら……ずっと絵を描いていられるだろうから」




 そう言って笑うギリッグはよっぽど絵を描くことが好きなのだろうというのが伺えた。



 売れない絵描きの中には、ギリッグのように他にも仕事をしているものは多い。芸術の国といえども、格差は大きい。売れている者の暮らしはそれはもう豊かだが、そうでない者はそういう暮らしをするしかない。

 それでいて首都以外の場所で暮らしていくとなると、今度は絵を売れる機会が少なくなる。そういうわけで一流の芸術家を目指すものたちはこぞって都会へと出てくる。

 しかし都会であればあるほど家賃なども高く、暮らしていくことは難しくなる。


 実力がないものは結局淘汰されていき、芸術家から他の職業へと移っていく。




「僕と同じように絵描きだった人の中にも違う職業になった人は多いんだ。何かがきっかけでそうやって諦めていく人は多い。……ただ僕はそれを諦めたくないんだ。正直そのせいで恋人には振られたけど、まぁ、僕にとって恋よりも絵を描く方が大事だったから仕方ないかなって」




 このギリッグという青年は、よっぽど絵を描くことが好きらしい。夢というものは何かがきっかけで諦める人が多いものだ。昔、それを目指していた……という過去形で語られることの多いもの。

 結局のところ、その夢を叶えられるのは諦めずに動き続けた人だけなのだろう。




「今度のコンテストで、この絵を出してみようと思っているんだ」



 ギリッグがそう言って見せてくれたのは――この国にとって同盟国である帝国の皇妃、ヴィダディの母親であるマドロールの絵だった。

 ギリッグはマドロールを直接見たことはないらしい。ただ伝え聞く話と、他の人の描いた絵から読み取ったマドロールの絵。

 だけどその絵は味があるというか、よくマドロールの特徴をとらえている良い絵だった。




「この出来なら良い結果につながるだろう」



 母親が大好きでたまらないヴィダディからしてみると贔屓目もあるが、それを抜きにしても良い絵だったのでヴィダディは正直に口にした。




「ははは、ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ。中々結果は出ないけれど、諦めずに頑張ろうと思うんだ」



 ギリッグはコンテストなどであまり結果を振るっていないらしい。

 それでもギリッグの目は、死んでいない。

 諦めることなく、コンテストに出し続けることを決めているらしい。ヴィダディはそういう人間は嫌いじゃない。



 今回お忍びで来ている自分と会ってくれたこと、そして描いているのが大切な母親であること、そういうのも踏まえてヴィダディは良いなぁと思っているわけである。




「――いつか、この国で成功するのが夢なんだ」



 ギリッグはそう口にしていたので、ヴィダディは彼を帝国には誘わなかった。



 それは先ほど見せられた絵ならば十分結果を残せるだろうということが分かったから。そしてコンテストで良い結果を残すのが夢だと言っているので、その夢がかなえばいいと思ったからである。




 ギリッグの家を後にしたヴィダディとジャダッドは、宿への道中で会話を交わす。



「あの絵の出来ならば結果は出せるだろうな」

「皇妃様の絵は皆よく題材にするよなぁ。俺も何人かが描いたの見たことあるけれど、良い出来だったと思う」

「ああ。母上の絵で良い結果を出してくれれば私も嬉しい」

「……本当に皇妃様のことが大好きだよなぁ。というか、城にも大量に絵あるよな」

「父上と私とかで集めてるから。父上の絵も多い。こっちは母上が自分で描いたり、集めてる」




 その会話であげられている通り、帝国の城にはマドロールやヴィツィオの絵は多い。

 あと家族の絵もマドロールが望むため、結構な量がある。

 そうやって色んな絵描きの絵を見たことのあるヴィダディが良い出来だというレベルなので、ギリッグの絵はそれほどなのだろう。

 寧ろあれだけの絵を描けるのならばもう既に結果が出ていてもおかしくなかった。



 たまたま今回、ヴィダディとジャダッドに見せた絵のみが良い出来だったのか……。

 ヴィダディとジャダッドはあの出来だったらそれなりに良い結果が出るだろうと思っていた。




 しかしである。

 ギリッグの家を訪れた数日後に出たコンテストの結果では、その絵は入賞さえもしていなかった。




 賞をとった絵は、それなりの出来だった。そしてそのコンテストの賞をとったものは、貴族や商家などといった家の出のものが多かった。



「ちょっと調べてもらっていいか? ギリッグ以外の圏外の絵も、私は良い出来だと思う。これだけ貴族や商家ばかりの家の者だけが賞を取っているのはおかしい」



 ――そしてヴィダディはその結果に違和感があったため、調べてもらうことにした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ