「そりゃ、ヴィダディは権力者だけどそれって俺の力じゃねーしな。」―皇太子視察編④―
ヴィダディはジャダッドたちの選別してくれた相手にのみ会った。ヴィダディの寵愛を望むような相手は最初から省いている。とはいえ、ジャダッドたちはヴィダディを甘やかすだけではないので、癖が強いが役に立ちそうな人は通したりしていた。
「疲れたか?」
やってきた人たちの相手を終えたヴィダディは優雅に椅子に腰かけている。一見すると平然としているようには見えるが、友人であるジャダッドにはヴィダディが疲れていることが分かったらしい。
「少しな。城に挨拶に来る貴族とはまた雰囲気が違う」
「そりゃそうだろ。帝国の城に上がれる貴族なんて結構限られているからな。ヴィダディは竜に乗れるし移動もすぐだけど、そういう連中は限られている。馬車で本当に長い時間をかけて帝都に向かうしかないからな。それに下級貴族だとそんなに領地の収入もないだろうし」
ジャダッドだってたまたまあのパーティーでヴィダディと縁を得たが、もしそれがなかったら城に上がることはほとんどなかっただろう。ジャダッドはただの外交官の息子なので、ヴィダディとの身分は天と地ほどの差がある。ヴィダディが許していなければこんな軽口は聞けないものである。
しかし友人として接していいと言われたからといって、ヴィダディにこんな風に軽口が叩けるからこそヴィダディが気に入ったともいえる。
「でもまぁ、此処からは身分を隠してお忍びで行くから少しはましになるんじゃね? 挨拶にこんだけ来ないだろうし」
「それなら安心だ」
「ただあれだよなぁ……。ヴィダディってそれ抜きにしても美少年だから、女は寄ってくるだろうなぁ。皇太子っていうガードが使えないわけだし、うん、絶対寄ってくるぞ」
「……皇太子って身分いってなければそんな近づいてこないんじゃないか?」
「いやいや、お前、自分の見た目を甘く見るなよ。ヴィダディは皇太子で、あの陛下の息子だからこそ周りだって萎縮している面は絶対あるぞ。身分差があればあるだけ近寄りがたいのは当然だろ。そのまま帝国の外交官の俺の友人で、それなりにいい所の坊ちゃんっぽい雰囲気醸し出してたら……やばそうだな」
綺麗で、美しく……それでいて護衛を連れた神秘的な美少年。少し冷たく近寄りがたい雰囲気を醸し出していても、ヴィダディの見た目は良いので近づきたがる女性は多いだろうとジャダッドには想像が出来た。
ジャダッドの言葉にヴィダディは嫌そうな顔をする。
「そんな嫌そうな顔するなよ。全部適当にあしらうか、騎士たちに対応してもらえばいいだろ。見た目を変える魔法具も持ってきたんだろ?」
「うん。父上と母上がお忍びデートでよく使っているやつ。一応目立たなくもしてくれるらしいからそこまで来ないはず……」
「そうか」
「折角だから母上と同じ髪色にしてしまおうと思っている」
「本当にヴィダディは家族が好きだな」
皇太子であるヴィダディはそれはもう家族の事が好きである。十三歳というそれなりに年頃の年でも、全く持って周りに恥ずかしがりもせずに家族のことを好きだと示す。そういうところはおそらく皇妃であるマドロールの影響であろう。
なんせ、いつも彼女は「ヴィー様大好き! 子供たちも大好き!」とそんな風に言動で示しているから。
「ジャダッドも魔法具使うか? 予備も持ってきてるけど」
「いや、俺は隠す必要ないし。それにそんな高価な魔法具身に着けるとか壊しそうで怖すぎるから嫌だ」
「別に壊しても弁償なんて求めないぞ」
「俺はそれでもいいけど、父上たちが絶対に気にする。あの人たち、いまだに俺がヴィダディと仲良くしているの慣れてないんだから」
「ジャダッドはこれだけ図太いのに、両親はそうじゃないんだな」
「まぁ、父上たちは普通だからなぁ。外交官として成果を出しているけれど、そこまで出世意欲もあるわけじゃないし。俺がヴィダディと仲良くしているんだから、陛下から覚えめでたくなりたいとかねーのかよって思う」
ジャダッドはそんなことを言いながら苦笑している。
息子が皇太子と仲良くなったというのならば、それを利用しようとかそういう気持ちがあったりしないのかとそんな気持ちのようである。
「ジャダッドだって私と仲良くしていて特に何も求めていないから似た者同士の親子だな」
「そりゃ、ヴィダディは権力者だけどそれって俺の力じゃねーしな。たまたま仲良くなったのが皇太子だったってだけだし」
そんな風に簡単に言ってのけるジャダッドに、ヴィダディは笑った。
そしてそんな会話をかわした少し後、魔法具を使い髪の色を変え身分を隠したヴィダディと共にジャダッドは国境を越えた。
その国は帝国と友好関係を築いている国である。国力だけでいえば帝国の方が圧倒的に強い。一応、その国には「お忍びで皇太子が行くかもだけど、何か問題が起こらない限りは連絡しない」という通達はされているらしい。




