「ヴィー様、制服着てみてほしいです!」
短編の少しあとぐらいのイメージ
「私の弟が今度学園に入学するんです」
「まぁ、そうなのね」
マドロールは今、貴族の夫人や令嬢たちと共にお茶会をしている。皇妃であるマドロールからお茶会に誘われることは、彼女たちにとってにとっては誇りである。あの皇帝に溺愛されている皇妃と親しくしているというだけでも一目置かれるものである。
さて、今、マドロールたちが何を話しているかと言えばお茶会に参加している令嬢の弟が学園に入学すると言う話だった。
王侯貴族は家庭教師を呼び寄せて学ぶことも出来るが、学園に入学する者も多い。その学園を卒業したということで箔がつくのである。
マドロールは王女として生まれて、王城で学び、そして十七歳でヴィツィオに嫁ぐことになったので当然学園には通ったことはない。箱入り王女として外の世界をそこまで知らずに生きてきたので学園を訪れたことは当然ない。
「学園ってどんなところなのかしら?」
「私は以前学園に通っておりましたけれど、とても楽しいところですわよ。他国からも留学生が来ていたりもしますし、今でも付き合いが出来る友人たちも増えましたもの」
「まぁ、そうなのね。ぜひ、学園の話をもっと聞かせてほしいわ」
マドロールが微笑んでそういえば、その貴族夫人は楽しそうに笑って学園のことを説明してくれる。
その夫人が婚約者――今の夫と出会ったのもその学園でらしい。
幼い頃から婚約者が決められている場合もあるが、学園やパーティーで出会って婚約を結ぶこともよくあることだ。その貴族夫人は学生恋愛して、結婚したらしい。
マドロールはそういう幸せな恋愛話は好きなので、楽しそうに笑いながらその話を聞いている。
(学園で出会って恋をして――って素敵よねぇ。学園という閉鎖された場所で、出会うはずがない二人が出会って恋をはぐくんで、うん、素敵だわ。私の場合は結婚してからヴィー様が推しだって気づいたからそういう甘酸っぱい感じはすっ飛ばしているものね。まぁ、幸せだから全然いいのだけど!)
マドロールは学園の話を聞きながらそんなことを思考する。
(例えば、もし私とヴィー様が同じ学園で出会ったら……制服姿のかっこいいヴィー様を想像するだけで変な声でそうだわ! ヴィー様は皇族で、学園になんて通ったことがないことは私は知っているけれど、でももしヴィー様が学園に通っていたら……そうね、解釈としては成績は学園一位とかとっちゃって天才肌な感じで。それでいて見た目もかっこよすぎるから女子生徒にきゃーきゃー騒がれて、それをほぼ無視して。話しかけられて面倒だったら「うるせぇ」とか口にしちゃうんでしょ! それで友達なんかも作ることはなくて孤高って感じで……! はぁ、そんなヴィー様が居たら全力でめでたい。私が同じ学園に通っていたらそもそもそんなヴィー様に近づくなんて恐れ多いことは出来なさそうだから眺めるとかになりそうだわ。でも眺めるだけでもきっと幸せなのよねぇ。ヴィー様がヴィー様として存在しているだけで奇跡的だもの!!)
マドロール、お茶会の最中に妄想を爆発させている。
ヴィツィオが学園に通っていたらなんてことを考えただけで楽しくて仕方がない様子である。
「……マドロール様、どうなさいましたか?」
「なんでもありませんわ。それで話の続きをお願いするわ」
妄想して少し黙ってしまったマドロールは夫人から声をかけられて、取り繕ってそういう。
しかし貴族夫人から学園内で行われていた出来事や起こったエピソードを聞くとどうしても学園生活をしているヴィツィオを妄想して仕方がなかった。一度、そういうスイッチが入ってしまえばそのことしか考えられなくなっている模様である。
よってそのお茶会中、マドロールは話は聞いていたが少し心あらずだった。
そしてそのお茶会が終わった後、マドロールはヴィツィオの元へと向かった。
「ヴィー様、制服着てみてほしいです!」
そして椅子に座っていたヴィツィオに向かって、元気よくそんな要望を口にする。
一応周りに使用人や護衛騎士、ヴィツィオの側近の文官などもいるがマドロールはこの調子であった。
「……制服? どうしてだ」
「先ほどのお茶会で学園の話を聞いたのですけれど、それを聞いてから私、ヴィー様が学園生活をしていたらっていう妄想が止まらなくて!!」
全く取り繕う気もなく、勢いのままにそう口にするのはマドロールの頭の中がよっぽどヴィツィオの学園生活の妄想でいっぱいな証であろう。
「俺は学園には通ったことはないが。それで?」
「ヴィー様がもし学園に通っていたらって妄想したら最高すぎて!! ヴィー様はどんな場所にいてもヴィー様だし、きっと素敵で世界で一番かっこいいんだって再認識しました!!」
「そうか」
「はい!! それでですね、そうやって妄想していたらヴィー様の制服姿見たいってなってしまって。駄目ですか? 私もう、このままだとヴィー様の制服姿が実際はどんなのだろうって妄想しすぎて眠れなくなりそうです」
ヴィツィオの学園生活(妄想)について考えていたら、ヴィツィオの制服姿が見たくてたまらなくなったらしいマドロール。
周りでその話を聞いている面々たちは業務中なので表情を変えることはないが、内心は色んな感想を抱いている。
「……おい、制服用意してこい。マドロールの分も」
「はっ、承知しました」
そしてどこまでもマドロールに甘いヴィツィオが命じれば、すぐに使用人がその命令を遂行するために動き始める。
「ヴィー様、私のもですか?」
「ああ。マドロールも着ろ」
「ふふっ、ヴィー様が望むならきます! それにしても本当に制服を着てくださるなんて本当に本当にありがとうございます!!」
「喜びすぎだ」
「当たり前じゃないですか。ヴィー様が制服を着る世界線なんて本来ならありえないものですからね。そんなありえないヴィー様の可能性をこの目で見ることが出来るなんて幸せ以外ありません!!」
マドロールはヴィツィオに向かってそう言ってにこにこと笑った。
そしてその後届けられた制服を皇帝夫妻は身に纏った。
ヴィツィオの制服姿を見たマドロールは「ヴィー様最高!!」と大騒ぎして、大変楽しそうな様子を見せるのだった。




