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捨てられる予定の皇妃ですが、皇帝が前世の推しだと気づいたのでこの状況を楽しみます! 関連話  作者: 池中織奈


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「私は殿下に出直すことを申し出る。」―故郷の騎士編⑦―

「シェロレン、納得したか?」




 散々、シェロレンは仲睦まじい様子のヴィツィオとマドロールのことを見せつけられた。実はシェロレンに同行していた騎士もその場に黙って控えていたわけだが、シェロレンが皇帝に意見をしようとしたときにはそれはもう背筋がぞっとしたものである。


 それでその後に見せつけられたのは、ヴィツィオとマドロールのそれはもう仲が良い様子である。




(……マドロール様、あの皇帝陛下のことをヴィー様なんて呼んでいた。それでいてまるで皇帝陛下の全てが愛おしいと言う風に皇帝陛下のことをひたすら肯定していた。そして皇帝陛下も、マドロール様のことを噂以上に大切に思っている様子だった。だからこそ、シェロレンがこんな風になってしまうのも仕方がない話だろう)




 その同行した騎士が見つめる先に居るシェロレンは、なんというかそれはもう魂が抜けたかのような放心状態だった。


 ……自分こそがマドロールのことを救うのだ。マドロールは辛い生活を送っているはずだとそんな風に思い込んだ先で見せつけられたのが驚くほどの両想いっぷり。

 それにそれを見せつけられる前は、あのマドロールが怒りを露わにしていた。




(マドロール様、皇妃としてしっかり成長なさっていた。まぁ、皇帝陛下の前ではヴィー様ヴィー様言っていて何処までも無邪気だったけれど……。それにしてもあのマドロール様があんな風にお怒りになるなんて。ティドラン王国に居た頃も全く怒った姿は見せずに穏やかに笑っているお姫様だったのになぁ。皇帝陛下のことを言われて怒っていたから本当によっぽど好きなんだろう)




 マドロールが怒ったことに関してはその同行していた騎士からしてみても驚くことだった。



 王国に帰った後に王太子であるユラルに今回の件を報告する予定だが、ユラルも報告を聞いたら驚くことだろう。それだけマドロールはあまり怒らない。必要な場で怒りを見せることは王族としてあるが、これだけ本気で怒っているとなると本当にないのだ。




「……マドロール様が、あの『暴君皇帝』を本当に好いていらっしゃるのだな」

「ああ。その通りだ。殿下が言っていただろう。それなのにお前と来たら勝手にマドロール様の気持ちを決めつけて、マドロール様が不幸なはずだと思い込んで」




 騎士がそう言ってシェロレンを見れば、シェロレンは何とも言えない表情を浮かべている。現実を見て今更ながらに自分がやらかしてしまったことを理解したのかもしれない。



「……私は、騎士としてしてはならない行動をしてしまった」

「そうだな。仕えるべき殿下の言葉を聞かずに、庇護を受けている帝国の皇帝にあんな暴言を吐いた。国に仕える騎士としては失格だな」



 はっきりとそう言われて、シェロレンは息をのむ。そこまで言い切られるとは思わなかったらしい。しかしシェロレンのやったことというのはそういうことなのである。



 ヴィツィオとマドロールが許したからシェロレンは生きていて、ティドラン王国は存続している。しかしヴィツィオはシェロレンやティドラン王国自体をどうにでもすることが出来るのだ。それだけの力を帝国の皇帝であるヴィツィオは持ち合わせている。

 シェロレンは恋心の暴走で、それだけの不敬罪をやらかしているのである。



「……言われてみればその通りだ。私は勝手にマドロール様を決めつけ、マドロール様を救うべきだと思っていた。マドロール様は、帝国で皇妃としてあれだけ堂々としていられるだけの強い方なのに見誤ってしまった」

「そうだな。俺も驚いたけれどマドロール様はこの大国で皇妃をやれるだけの器を持っているな」





 その騎士も驚いたのだ。


 なぜなら小国に居た頃のマドロールは少し変わったところはあるけれども、何処にでもいるような姫君だった。どちらかと言えば愛らしい見た目をしたお姫様。

 そのお姫様が『暴君皇帝』の心を射止め、皇妃として存在するとは思わなかったのだ。

 あくまで政略結婚でしかなく、マドロールが辛い目にあっているのではないかとは想像していた。それが蓋を開けてみればこうなので、本当に人というものは分からないものだとその騎士は思う。





「私は殿下に出直すことを申し出る。このままの状況で殿下の傍で仕え続けることは皇帝陛下や殿下が許しても私自身が許せない」




 恋に溺れて、暴走して――だからといって帝国にまで来てしまうなんて行動を起こす者は王太子の騎士として失格である。

 今は現実を見て正気を取り戻していると言えるが、それでもやらかしてしまったことは変わらない。少なくともティドラン王国内でシェロレンの妄言を信じてしまった一部の存在もいるわけで、それらに対してもきちんと真実を伝えなければならないだろう。



「自分からそれを申し出てくれてよかったよ」



 そして騎士はシェロレンに向かってそう言って笑った。


 流石に正気を取り戻してもなお、自戒することも出来ない甘えがあるようだといよいよをもって騎士に向かない。まだ自分で自分がやらかしてしまったことを自覚し、それで自分から罰を申し出るのならばまだやり直せる可能性がある。





 ――そしてシェロレンは王国に戻った後、本当にその申し出をした。一介の騎士からまたやり直すことになるのだった。



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