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捨てられる予定の皇妃ですが、皇帝が前世の推しだと気づいたのでこの状況を楽しみます! 関連話  作者: 池中織奈


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「マドロールに好意を抱いている男なんていらないだろ」―故郷の騎士編⑤―

「ヴィー様、見てください。このドレス、いつも以上にヴィー様色が盛りだくさんって思いません?」

「そうだな」

「シェロレンが来るので、私はヴィー様のものでこれだけのものを与えられているんだって見せつけようと思って!!」



 マドロールはまるでパーティーに参加する時のようにきらきらしたドレスを身に纏っている。基本的に商人を呼ぶとか、お茶会をするとか、そういう場合以外は比較的落ち着いたドレスを着ているわけだが、今回は完全にシェロレンを諦めさせるためにも見るからにお金と手間がかかっているのが分かる装いだ。

 そのネックレスやイヤリングなども、それ一つで小国の国家予算ぐらいあるだろう。それだけ高価なものをヴィツィオは惜しみなく、マドロールに与えているのだ。



「……あんまり仲良くは話すなよ」

「ふふっ! ヴィー様、私のこと、大好きですよねぇ。私が男性と仲良く話すのが嫌だって、ヴィー様がそんな風に言うなら私はヴィー様とだけ話すに決まっているじゃないですか。寧ろシェロレンと話すのだって、私はほぼヴィー様が喋ればいいと思ってますからね! あ、でもあまりにもそんな風にしていたら益々変な勘違い加速しますかね?」





 マドロールはにっこりと楽しそうに笑う。



 シェロレンはあくまでもマドロールが『暴君皇帝』に嫁いだことを悲しんでいるのに、それを外に出せないでいるという哀れな皇妃だと思っている。



 帝国内に入ったシェロレンのことを、皇帝の手のものが探ってくれているが、民たちがどれだけ皇帝夫妻の仲の良さを話していようとも、皇帝夫妻の仲の良さを示す劇を見ようとも全く信じていない様子だとヴィツィオは報告を受けている。

 正直、そんな馬鹿な男はさっさと処罰していいのではないか? とヴィツィオは思っているが、マドロールが気持ちが沈むと言うので機会を与えるだけに過ぎない。



「そんなもの勝手にさせとけ」

「ヴィー様ってば、なんだか凄く何かきっかけを与えて処罰させようとしていません?」

「マドロールに好意を抱いている男なんていらないだろ」

「ひゃー! もう、ヴィー様かっこいい!! その言葉が私に向けられているとか、もう、本当にかっこよすぎ! なんていうか、少しだけちょっと不機嫌そうに言っているのがまたときめきます!」




 いちいちヴィツィオの言動に毎回ときめいているマドロールは、今日も元気にときめいている。

 ヴィツィオはそんなマドロールに、小さく笑う。

 その笑みを見てまたマドロールはときめているので、永遠とマドロールはヴィツィオにドキドキさせているのである。




 ……そんな様子を見ている侍女たちは「こんなに仲が良い皇帝夫妻を見れば例の騎士もすぐに諦めるだろう」などと考えている。






 さて、帝国の城内では皇妃様に愚かにも懸想する騎士としてすっかり噂になってしまっているシェロレンは、強い意気込みを持ってその城へと到着した。

 城内の一室に案内され、シェロレンは同行している騎士と一緒にその場に待たされる。




(どうにかこの帝国までやってこれたのだ。なんとかしてマドロール様の本音を聞かなければ)



 などと、そんな見当違いの決意に燃えている。



 ……当の本人は「ヴィー様かっこいい」ときゃーきゃー騒いでいる幸せな日々を過ごしているわけだが、そんなことシェロレンには想像もつかないのである。




 シェロレンに城内の使用人たちから向けられる目は、嘲笑や哀れみの目などが微かに向けられている。もっとも、彼らも皇帝に直接仕える使用人たちなので、シェロレンへの複雑な感情は表面上は出されていない。仮面を被り、にこやかに対応はしている。

 シェロレンはそんな仮面には気づいていない様子……いや、気づいていないというよりもマドロールに会えるということで頭がいっぱいな様子である。



 同行している騎士に関しては、居心地の悪さでいっぱいだ。

 こうしてシェロレンに同行することで特別手当が与えられるためやってきたが、そうでなければまずここまでやってこなかっただろう。



 シェロレンは早くマドロールに会いたいのか、落ち着かない様子である。

 しかし結構な時間、待たされる。




「君、マドロール様にはいつお目にかかれるんだ?」

「陛下も皇妃様もお忙しい身です。お待ちいただければと思います」




 その短い言葉には「皇帝夫妻は忙しい身なのにわざわざ小国の騎士に会おうとしている。それなのに文句をいうな」という意味が込められている。が、使用人たちのそういう態度を考える余裕もないシェロレンは気づいていない。


 ちなみにいうと、これだけ待たされているのはヴィツィオが「勝手に来た奴なんて待たせとけばいいだろう」といったからである。



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