「ヴィー様がヴィー様であるのならば、起こす行動は全て素敵なものだわ」―故郷の騎士編③―
「ヴィー様のどんな一面が見れるかしら」
「マドロール様は本当にマドロール様ですねぇ……。昔から親しくしていた騎士様がマドロール様に好意を抱いていて、その方が来るとなっても陛下のことばかりですね。とても良いことだと思います。仮にマドロール様がその方に少しでも情を向けたら陛下が暴走しそうですから」
「私がヴィー様以外にときめくことはありえないもの。ヴィー様が嫉妬してくれるのはなんだか嬉しいけれど、でもヴィー様には幸せに笑っててもらえる方が嬉しいわ。だからヴィー様が嫌がることはしたくないもの」
「ふふっ、本当にマドロール様は陛下のことが大好きですわね。これだけ陛下のことを愛してやまないマドロール様のことを可哀そうだと勘違いしているなんてその騎士様にも困ったものですね」
マドロールは侍女とそんな会話を交わしている。
騎士であるシェロレンは帝国にやってくることになっている。その手紙も送ってある。ただしユラルの時とは違い、この帝国で歓迎されているわけではないので竜騎士は送迎に使われていない。そういうわけでまだ騎士が到着するまでは時間がある。
「本当よねぇ。というか、勝手に実際に見てもないのに私が可哀そうで、苦しい立場にあるって勘違いしているなんて私に対して失礼だと思うの! 私は本当に心の底から幸せなのに! でもあれね、私がヴィー様のことを怖がっているみたいな世界線があったら変わったのかしら?」
……マドロールはそんなことを言いながらもし自分が前世の記憶を思い出さなかったらと考える。
(前世の記憶を思い出さなかったら、私はヴィー様のこと怖がっていただろうか? 冷たくされて心が折れたりしただろうか? 漫画の世界のようにそうなっていたら――今のヴィー様との関係は築けなかったわよね。……それで後から思い出して、ヴィー様との関係がどうしようもないものになってたとかじゃなくてよかったかも。ああ、でも私は前世を思い出す前から少なからず前世には影響されていたとは思うから、あんまり変わらなかったかしら? 漫画の中の皇妃のようになっていたら別だっただろうけれど、私は私だもの)
なんだかんだマドロールは、前世の記憶に影響されていた。それこそ、おそらくその記憶を明確に思い出す前からそうだったと思う。なので結局のところどうにかなったのではないか? という楽観的なことも考えている。
「……マドロール様が陛下を怖がるなんて想像できません」
「私も想像できないわ! でもどちらにしても大国に嫁いだ王女相手に恋慕して、その気持ちを隠しもしないって大問題だわ。せめてこう私が帝国に嫁ぐ前に何かしらアクションがあるとか、本当にどうしようもないのならば全て隠し通して一生を終える方がかっこいいと思うわ。それか攫っちゃうだけの力があるなら攫っちゃうとか。私のヴィー様なら、私が誰かの物になった後に私に出会ってたらどうしてたかしら? 私のことを大切に思っていたなら、殺してでも奪いそうよねぇ。そう考えると私はヴィー様と初婚でよかったわ」
「……そうですね。陛下ならそうするでしょう」
ヴィツィオはおそらくマドロールに執着した時、マドロールが誰かの物だったとしても無理やり奪うのが想像が出来た。
マドロールからしてみれば、それが起こればヴィツィオが悪いように周りにいわれることが分かるので今の出会い方でよかったなと素直に思っている。
「ヴィー様は過激だものね。そういうところも本当に素敵だわ」
「結局マドロール様は陛下が陛下なら、どういう陛下でもいいんですものね」
「そうよ。よく分かっているわね。ヴィー様がヴィー様であるのならば、起こす行動は全て素敵なものだわ。だってヴィー様だもの」
うっとりとしたような表情を浮かべるマドロールは本当にぶれない。
結局のところマドロールはヴィツィオがヴィツィオらしく生きているのならばどういった行動を起こそうと全て受け入れるであろう。
「マドロール様は例え世界の全てが敵に回ったとしても陛下の傍に一人いそうですね」
「ふふっ、その妄想素敵だわ! もちろん、実際にはそんなの寂しいから嫌だけど、誰も周りに一人も居ない状況でヴィー様と私だけってことでしょ? それはそれであり……」
「……本当にこれだけ陛下を愛しているマドロール様が悲しんでいるって妄想抱いている騎士様ってなんなんでしょう?」
「自分に酔っているのではなくて? そんな風に愛情を抱いている自分がかっこいいーみたいな」
「痛い人過ぎません?」
「ええ。私も痛い人だと思うわ。昔から知っている騎士がそんな風になるとは思わなかったから何とも言えない気分ね。私がヴィー様をどれだけ愛しているか知ったらすぐに目が覚めてくれればいいけれど……私がどれだけヴィー様のことを好きかを示しても暴走するならどうしようもないわね……。お兄様には許可をもらっているし、その時には仕方がないけど処罰だわ」
本当にどうしようもなければ、帝国の皇妃に手を出そうとしたという罪で問われる。
皇妃とは、皇帝の所有物である。それに対して手を出すものは万死に値するのは普通のことだ。
「……というか、皇妃の私にそういう気持ち抱いているって中々危ないことなのだけど、それを隠しもしていないなんてありえないわ。お兄様の話では騎士を応援している愚かな方もいるみたいだし。だからこそ放っておいて大事になる前にお兄様は現実を見せようと思ったのだろうけれど」
困った様子でマドロールはそんなことを言う。
その騎士はありえないことをやらかしているのだ。堂々と大国の皇妃に懸想していると告げ、それを応援する一部の愚かな人たちもいる。それはマドロール本人の意思を無視した行為である。
それを危険視して、ユラルはマドロールに手紙を出したのだと分かる。
マドロールは侍女と会話を交わしながら、大人しく目を覚ましてくれればいいなと思って仕方がなかった。




