「なんで俺がそれを許可する必要がある?」―故郷の騎士編②―
「……」
ヴィツィオは、マドロールから受け取った手紙を読んで眉を顰める。
マドロールのことを愛してやまないヴィツィオは、マドロールに恋慕の念を抱いている騎士を近づかせるのが嫌だと思っているのだろう。
「ヴィー様が前にいってたこと、当たってましたねー。ヴィー様はそういう勘もあたるんだなぁって、凄いなってなります! ところで、ヴィー様、これ、どうしましょう?」
「……マドロールは、受けるつもりか?」
「そうですねぇ。他でもないお兄様からの頼みなので、受けた方がいいかなっては思っているんですが。駄目ですか?」
「なんで俺がそれを許可する必要がある?」
どこまでも不遜な態度である。
ヴィツィオはマドロールがその騎士に会うのは気に食わないと思っているのだろう。そういう風に不機嫌そうな『暴君皇帝』を見てもマドロールは幸せそうに笑った。
「必要はないです! ヴィー様が本当に嫌だっていうなら諦めます。ただ、これで昔から知っている騎士が不幸なことになるのはちょっと私の気持ちが沈んじゃうなって思います。私はヴィー様のことが大好きなので、ヴィー様の意見が優先されますけど。でも私は周りのことも気になっちゃいます! だから、私のためにも許可してくれませんか?」
マドロールはそんなことを言って、不機嫌そうな顔をするヴィツィオの頬に手を伸ばす。
そしてヴィツィオの顔を見上げて、にこにこしている。
「ふふっ、ヴィー様、私のことが大好きだからそういう騎士と会ってほしくないんですよね? ヴィー様、本当に可愛いです。大好きです。私、そういう風に『昔から好きだった』みたいな感じに騎士から言われたとしても、正直心が動きません。私の心をときめかせて、私を幸せにしてくれるのってヴィー様だけなんですよ? ヴィー様の表情とか、言動とか、その一つ一つが私のことを幸せにしてくれるんです」
「……ああ」
「ヴィー様も、私がいると幸せですか?」
「ああ。……だから、そいつに会わせるのが少し嫌だ」
「ふふっ、ヴィー様も一緒に同席してくださればいいんですよ。お兄様は私とヴィー様が仲良しだってことを見せつければいいっていってました。私はヴィー様の奥さんで、この帝国の皇妃です。だから私が小国の姫だった頃と同じように接してくるならそれはそれで注意も出来ますし、私自身から話して納得してくれるならそれが一番だって思います。それでも話を聞いてくれない場合は問答無用で追い出しましょう!」
マドロールがそう告げれば、ヴィツィオは嫌そうな顔をしながらも結局頷いた。
『暴君皇帝』の意見をこうやって変えさせて、屈託のない笑みを浮かべるのはマドロールぐらいである。この場に控えている使用人たちは「皇妃様は本当に凄いなぁ」とそう思ってならない。
他の人間だったなら、自分からヴィツィオに近づいてその頬に触れることなど出来ない。マドロールのように躊躇いもせずに意見をすることなど出来ない。そういうことを行えば、『暴君皇帝』に怒りを買うことが間違いないから。
「ああ。気に食わなければいつでも追い出すが、いいか?」
「もちろんです。この国はヴィー様の決定が全てですから。ヴィー様、嫌なのに許可してくれてありがとうございます。騎士が愚かなことを言わないように私とヴィー様の仲の良さを見せつけましょうね! 私がヴィー様のことが大好きだって、今、凄く幸せで仕方がないんだって示しましょう。もし告白紛いのことをされたとしてもきっぱりふります!」
「ああ。……会う時は俺が居る時だけな」
「当たり前です。ヴィー様を不安にさせるようなことはしませんよ。私はヴィー様だけを愛してますから」
そう告げたマドロールの口を、ヴィツィオがふさいだ。
マドロールはヴィツィオに口づけをされると、それはもう幸せそうに、嬉しそうに笑った。
「ねぇ、ヴィー様。ヴィー様は世界で一番かっこいいから、今までも沢山気持ちを向けられてきたと思います。ヴィー様が私以外からの言葉で心を動かされてたらって思うと、ちょっと嫌だなって思ったりします。そういう経験ってありますか?」
「ない」
「即答するあたりがヴィー様らしいですよねぇ。ヴィー様ならきっと昔の知り合いが恋心を暴走させているとか聞いても顔色一つ変えないんでしょうね」
「当たり前だろ」
「でも私に何かあったらヴィー様はきっと焦ってくれるんですよね?」
「ああ。マドロールは俺の唯一だから」
「はぅ……本当ヴィー様、かっこいいですよねぇ。もう、ヴィー様が私の事だけ唯一だって思ってくれているなんて本当に最高に幸せすぎて、落ち着かない気持ちでいっぱいになります」
ヴィツィオはマドロールが自分の言葉で挙動不審になるのを、それはもう楽しそうに見ている。そしてマドロールはヴィツィオの言葉で既に頭がいっぱいになっており、ユラルからの手紙の騎士のことなんて考えることをやめていた。
――そしてそれから少したって、騎士がこの国にやってくることになった。




