「ミドロールはヴィー様に似てとっても綺麗だから、どんなドレスでも着こなせるはずだわ。」
次女が十歳の時の話。
「ミドロール様は陛下に似てらっしゃるわよね」
「とても素敵な美人に育ちそうよね」
皇室に仕える侍女たちがそんな会話を交わしている。
……そんな会話を第二皇女であるミドロール本人も聞いている。
褒められている、というのは分かるものの……可愛いものが好きなミドロールは自分が母親であるマドロールや姉であるロルナールのようにもっと愛らしい見た目だったら……と思ってしまうことはなくもない。
まだ十歳にもかかわらず、ミドロールの目は釣り目で、初対面の相手には少し怖がられそうになってしまう。
(お母様やお姉様みたいに可愛かったら、もっと可愛い服とかに合いそうなのになぁ。お父様譲りの髪も瞳も好きだけど……ちょっとそう思っちゃう)
ミドロールは家族のことがとても大好きだ。
『暴君皇帝』などと呼ばれていても、家族には優しい父親。
父親のことが大好きで、自分たちのことを可愛がってくれていつもにこにこしている母親。
父親に似ていて、周りには冷たいと言われているけれど弟妹には優しい兄。
母親に似ていて、優しい笑みを浮かべてくれる姉。
そして銀色の髪と黄色い瞳の双子の弟は、ミドロールにとって守るべき存在である。
家族が大好きなので、父親とお揃いなのは嬉しい。
だけど、恋物語などを読むのも好きなミドロールは自分はそういう小説の中で描かれるようなヒロインのタイプではないなぁなどと思ったりする。
(お母様もお姉様もとっても可愛くて、にこにこしていてまるでそういう小説のヒロインか何かみたいだもん。お母様とお父様のお話って劇によくされているし……)
そんな風にミドロールは時々考えてしまったりする。
「ミドロール様はとっても可愛らしいですからね?」
ミドロール付きの侍女はそういうが、自分が皇帝に見た目が似ていることは理解している。
とはいっても、ちょっときつめに見られてしまうのが自分だとミドロールは理解している。
ミドロールは母親の元へと向かった。
「お母様!」
「あら、ミドロール」
皇妃であるマドロールは、今度行われるパーティーの采配をしていた。文官から話を聞いていたらしいマドロールは、ミドロールが先ぶれなしに訪れても嬉しそうににっこりと笑う。
ミドロールは母親のこういう、幸せそうで、自分を慈しむように見てくれる目が大好きだ。
愛されている……というのが一目瞭然で、一緒に過ごしているとミドロールも幸せな気持ちになるから。
「今度のパーティーの衣装、どうしようかなって思って」
「ふふっ、貴方の好きなものでいいのよ? ミドロールは可愛いから、どんなものだって似合うわ」
マドロールは心の底からミドロールのことを可愛い、と思っている様子でそういう。
ミドロールはまだ子供なので、参加するパーティーはあまりない。しかし時折皇族としてパーティーには参加しているのである。
「そのことなんだけど、私、お母様やお姉様ほど可愛いわけじゃないと思うの! どちらかというと、大人っぽい方が似合うのかなって」
例えばミドロールが、昔ロルナールが着ていたような愛らしさMAXのドレスを着れば比べられてしまうだろう。ちゃんとそういうことをミドロールは理解している。
「そうね。大人っぽいものも素敵だと思うわ! ミドロールはヴィー様に似てとっても綺麗だから、どんなドレスでも着こなせるはずだわ。ふふっ、ヴィー様が女装したらこんな感じかしらって、妄想がたぎるわ」
「……お母様、お父様は女装はしないと思いますわ」
「それはそうよ。ヴィー様だもの。でもミドロール、貴方が好きな着たい服を着れば問題ないわ。ミドロールのドレスに文句を言う人なんていないもの!」
ミドロールはこの偉大なる帝国の皇帝の娘である。なので、例え少し似合ってなかったりとか、何か思うことがあったとしても何も言わないだろう。そんな文句を言ったらまず皇帝の手が出る。
「難しいかもだけど、ちょっと大人っぽいけど、可愛いとも思えるものがいいなって思うわ」
「ふふっ、じゃあそういうものをラッヘメナにちゃんと作ってもらいましょう。ミドロールは本当にヴィー様に似てとっても可愛いんだから、好きなものをどんどん着ていいのよ」
マドロールは皇帝であるヴィツィオのことでさえ、中身が可愛いと口にする人間なので本当にミドロールが可愛くて仕方ないのだろう。
そういう風にマドロールが笑うと、自分がもっと可愛い見た目だったら……と思っていた気持ちがどんどんなくなっていく。
ちょっともやもやした気持ちになったりしても、ミドロールは家族と話すとすぐに楽しくて幸せな気持ちになるのだった。




