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捨てられる予定の皇妃ですが、皇帝が前世の推しだと気づいたのでこの状況を楽しみます! 関連話  作者: 池中織奈


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「私が今の立場にあるのは、マドロール様が私の腕を買ってくれたからです」―とある職人の成り上がり⑤―

 ラッヘメナはそれはもう忙しく過ごしている。



 貴族令嬢は基本的にパーティーの度にドレスを新調したり、リメイクしたりするものなので仕事が途切れることもない。それか気に入ったドレスは大分時間をおいてから着るか。少なくとも連続してパーティーで同じドレスを着ることはないのである。

 ラッヘメナの作成したドレスは、依頼主たちに好評だった。



 幾ら皇妃であるマドロールが気に入っている職人とはいえ、実際のドレスの出来が悪ければそうはならなかっただろう。それだけラッヘメナの腕が良かったと言う証である。



 ラッヘメナにとってそれは夢のような出来事だった。

 お店ではこうして大好きな洋服を作らせてもらえる機会もあまりなかった。ラッヘメナの腕をこんな風に買ってもらえるなんて思ってもいなかった。

 だからこそラッヘメナは今の状況が大変充実していると思っている。



(私の作ったものをそれだけ気に入ってくださっている。凄く嬉しい)




 ラッヘメナは嬉しくて仕方がなくて、ドレス作りに熱中していた。まだ十四歳でありながら、ラッヘメナは帝国で有名な職人へとなっていった。



 彼女が孤児出身であるというのもまた彼女を有名にする一つの要因になった。

 孤児であろうとも、帝国では彼女のように成り上がることが出来る。その事実は帝国民たちにとっては希望であると言えるだろう。自分ももしかしたらあのようになれるかもしれない……そう期待する人々も増えていったのである。




 さて、皇妃であるマドロールや帝国の貴族令嬢たちのドレスを作るようになったラッヘメナに注目をするものたちはそれはもう多くなった。

 まだ若く、孤児出身とはいえ帝国で一番有名な職人。

 そんな立場のラッヘメナ相手への縁談も数多く舞い込んでくる形になった。



「わ、私に縁談ですか。しかも貴族様からも来ているなんてどうしたら……」




 その縁談は驚くことに貴族たちからも多く届いていた。その事実は彼女にとっては青天の霹靂でしかない。しがない平民であり、それ以上の何者でもないと彼女は皇族御用達になっても思っている。



「あなたがやりたいようにすればいいのです。マドロール様もラッヘメナさんが望まぬ結婚をすることを望んでおりませんから」



 ラッヘメナはそのように言われたので、しばらくはそういう縁談を保留にすることにした。

 若くして結婚する者も多いこの世界だけれども、ラッヘメナにとって結婚というのはまだまだ先のことという認識である。

 それに結婚相手によってはラッヘメナがこうして働くことを許さない人もいるかもしれない。彼女は例えば結婚したとしても今のように、それはもう一日中働くことをやめたくなかった。

 大好きなことをずっとやっていられるように、そういう暮らしをし続けたいと思っていた。




(私は私の仕事を認めてくれて、それでいて一緒に居て楽しい人と結婚したい。ただ私がマドロール様のドレスを作っているからというその肩書だけが目当ての人ではなくて、私の仕事をちゃんと分かってくれる人がいい)




 マドロールのドレスを作っているからという肩書だけを目当てに、それで近寄ってくる人は嫌だと思う。

 きちんと自分の作るものを理解してくれている人。それでいて楽しい人。



(こんな風に私が誰かを選ぶ立場になるなんて思ってもいなかった。だけど今の私は誰と結婚したいかも選べる立場にあるんだよね。……うん、ちゃんと考えよう。それで誰とも結婚したくないなと思ったらそれはそれできっとどうにでもなるはず。結婚しないことに色々言ってくる人もいるかもしれないけれど……マドロール様は私がそういう選択をしても受け入れてくださると思う)




 ラッヘメナがそんな風に思うのは他でもないマドロールは受け入れてくれるだろうとそう思っているからである。

 ドレスを仕立て上げる度に「ラッヘメナは本当に凄いわね」とそう言って笑ってくれる。

 それでいて孤児院育ちで平民であるラッヘメナの意思を尊重してくれている。

 そういうマドロールだからこそ、きっとラッヘメナが結婚しないと言う選択をしても気にしないだろうと思った。



 実際にその後、マドロールと会う機会があった際に「結婚しないかもしれない」というのを告げてもマドロールは「そうなのね」と笑って受け入れるだけだった。





 そういうわけでそれからラッヘメナは基本的に仕事を優先し、気になる人とは会ってみるということを行った。しかしやはり平民であるラッヘメナは一般的な貴族男性とは価値観が違い、気が合わない。

 そういうわけでそのうち貴族からの縁談は基本的に断ることになった。





 しかしそういう暮らしをしている三年後、ラッヘメナはとある貴族の子息と出会うことになる。

 それは伯爵家の長男というそれなりに身分の高い相手だった。しかし彼は自身が絵を描くことが趣味であり、ラッヘメナと気が合った。

 そしてラッヘメナはその男性と結婚することになる。

 もちろん、結婚後も皇室付きの職人として働き続けた。



 こうして孤児出身で、平民だったラッヘメナはそうして皇室付きの職人兼伯爵夫人へと上り詰めた。




「私が今の立場にあるのは、マドロール様が私の腕を買ってくれたからです」




 ――彼女は周りから成功の秘訣を聞かれるたびに笑ってそう答えるのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 凄まじい立身出世物語、吟遊詩人に吟われそう。 こういう主人公以外の話も大好きです。
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