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捨てられる予定の皇妃ですが、皇帝が前世の推しだと気づいたのでこの状況を楽しみます! 関連話  作者: 池中織奈


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「こんな奇跡が私に起きるなんてっ」―とある職人の成り上がり①―

属国観光編でマドロールが連れ帰った職人の話

「緊張する……」




 ラッヘメナは緊張した面立ちで鏡の前で立ち尽くしている。



 ――ただの孤児出身の職人であったラッヘメナは、帝国にやってくることになった。

 それは皇妃であるマドロールがラッヘメナの職人としての腕を気に入ったからである。



 マドロールはラッヘメナのその腕を買っただけではなく、孤児院の子供たちも帝国に移住させてくれた。横領していた貴族たちは処罰され、移住費用の全てを持ってくれた。

 ……正直あまりにも良い話に、騙されているのではないかという気持ちもある。

 けれども高貴な方がそこまで言ってくれるのを断れないのと、職人としての腕を認めてもらえたことが嬉しかったのでラッヘメナは此処に居る。




(こんな奇跡が私に起きるなんてっ……。この洋服も準備してくださったし……)




 そんな気持ちになってしまうのは、今の状況がまるで夢か何かと思うぐらいに良いものだからである。




 孤児院出身のラッヘメナはお城に上がるための服も持ち合わせておらず、それらに関してもマドロールの指示で準備されたものである。

 孤児院の環境も明確によくなっている。皇室により選定された職員が子供たちに対してそれはもうよくしてくれている。



 ……そして今日は帝国にやってきて初めて、ラッヘメナが城へと向かう日である。



 騎士の迎えが来て、馬車に乗り込む。

 その騎士たちも、驚くことにラッヘメナが孤児出身だというのに態度を変えなかった。



(……前の所では私が孤児出身だからと色んなことを言われたしされた。私はそれが当たり前だと思っていたのに。ここでは違うんだなぁ)



 ラッヘメナは不思議な気持ちになった。



 そして向かった城での視線や周りの態度に驚いてしまう。

 その視線は好意的なものばかりだった。



「皇妃様がわざわざ連れ帰ってきたのですって」

「まぁ! 陛下はマドロール様のことを本当に愛してますものね。それにしても優秀な方なのでしょうね」



 皇室付きの侍女たちは楽しそうにラッヘメナを見てそんな会話を交わしているぐらいである。



 この帝国では皇帝夫妻の決定は絶対である。それでいて城で働く者たちは皇帝夫妻を慕う者ばかりである。だからマドロールがわざわざ連れ帰ってきた職人に対して悪意を向けるはずがない。

 というより面白くないと心のどこかで思っていてもそんなことを万が一口に出してしまった場合、飛ぶのは自分の命だというのをよく分かっているのである。



「ラッヘメナ。新しい暮らしはどうかしら? 何か不便があったら申し出てね」

「は、はい」



 ラッヘメナはマドロールの元へと案内されたわけだが、マドロールは初対面の時と変わらずににこやかに好意的に笑っていた。



(こんな豪華なお城で暮らしている、この大陸で最も高貴であるマドロール様が……孤児出身の私みたいなのに優しくしてくれるなんて……)



 そんな風に感激してならなかった。



「それは良かったわ。伝えた通り、ラッヘメナには私の服を作って欲しいの。メインはパーティーに出る時のドレスだけれども、大丈夫なら普段着も作ってもらいたいわ」

「は、はい」

「そうねぇ、まずはパーティー用のドレスを一着作ってもらえるかしら?」

「はい! えっと、期間はどのくらいまでになりますでしょうか?」

「最初は期間は気にしなくていいわ。ただこの日までに間に合わなそうならいってもらえる? ただ無理はしないでいいわ。ちゃんと睡眠をとって、身体を壊さないようにね。どういう働き方の方がラッヘメナはやりやすいかしら? 城に毎日来る? それとも家で進めたいタイプかしら?」

「え、えっと……ど、どちらでも大丈夫です!」

「ふふ、じゃあどうしたいか決まるまでは城に来てもらう形にしましょうか。ラッヘメナの作業用の部屋も作っておくわね」

「はい! 何時に来たらいいでしょうか?」

「何時でも大丈夫よ。あなたが来たい時間に来て、進めればいいの。ある程度必要そうなものは準備しておくわね。他にも必要なものがある場合は伝えてもらえたらすぐに準備してもらうわ」



 マドロールはにこにこと笑ってそんなことを言う。



 その後、マドロールと少し話したラッヘメナは城に仕える文官に仕事部屋へと案内される。先ほどの会話がなされてすぐに準備されたものらしい……。



 城内の一室にこうやって部屋を用意されるというのは、この帝国内では大きなステータスである。まぁ、此処に来たばかりのラッヘメナにはそれがどれだけ凄いことなのかはまだ分かっていないが。




「こ、こんなに素敵な場所いいのですか?」

「はい。皇妃様が決めたことですので、貴方は遠慮せずにこの部屋を使っていただければ大丈夫です。必要なものがあればすぐに用意しますので」

「は、はい。ありがとうございます!!」



 ラッヘメナは文官の言葉に勢いよく頷いた。


 ――まだ色んなものが足りない状況だ。だけれどもまずは、ドレスのデザインを作るところからなので、それをスケッチすることは今の段階から出来る。



 早速、ラッヘメナは仕事を始めた。


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