「ヴィダディも好きな子が出来たら甘々になりそうだよなぁ」
知り合って少し経った後の話
「ジャダッド、くれぐれも皇帝陛下や皇太子殿下たちに失礼のないように」
「分かってるって。毎回父上は心配しすぎだって」
「当たり前だろう……。本当にくれぐれも気を付けてくれ」
「はいはい」
ジャダッドは父親の言葉に適当に返事を返して、迎えの馬車へと乗り込んだ。
ジャダッドがこれから向かおうとしているのは、帝国の皇帝の住まう城である。つい先日、とある一件からジャダッドは皇太子であるヴィダディと話すようになった。
(父上は色々心配しているけれど、そもそもヴィダディがちょっとしたことでブチ切れるやつだったら初対面の段階で俺は首を切られているしなぁ)
ちょっとしたことでヴィダディが怒りを露わにするような性格だったのならば初対面の段階でアウトである。それが分かっているのでジャダッドはもうそういう心配はせずにヴィダディと付き合うことにした。
城に辿り着くと、もうすっかりなじみになっている騎士たちから手荷物などの検査を受けてから中へと入る。
ヴィダディが皇室の図書室に居ることを聞いたので、まずはそこに向かうことにする。
図書室の中に入れば、静かに本を読んでいるヴィダディが居る。その姿は同性であるジャダッドの目から見ても美しい。
(完成された絵画か何かみたいなんだよな。造り物みたいというか……だから令嬢たちがきゃーきゃーいうんだろうけれど)
そんなことを思いながらジャダッドはヴィダディに話しかける。
「ヴィダディ、来たぞ」
すっかり呼び捨てにしているのは、ヴィダディ本人から呼び捨てにするように言われたからである。
「来たか。座るといい」
「ああ」
ヴィダディに促されるまま真正面の席にジャダッドは座る。
ヴィダディは次期皇帝になる者としてそれはもうよく勉強している。ジャダッドを呼ぶのも外交官の息子であるジャダッドから話を聞きたいというのもあるらしい。
「……また難しそうな本読んでいるな。それ南部の部族の言語だろ」
「そう。中々難しい」
「ヴィダディが難しいっていうならよっぽどだろうな。……うん、俺には読めないな。関わる予定でもあるのか?」
「ないけれど、覚えていた方がいい」
そんなことを言うヴィダディは中々の努力家である。
大国である帝国の皇太子で、見た目も美しい。身分も権力も美しさも持ち合わせているのに、ヴィダディは慢心した様子もない。
「お前って凄いいつも勉強してるよな。そんなに気張ってたらつかれねー?」
「大変ではあるけど頑張れば母上が褒めてくれるし、妹や弟たちにも尊敬されるし」
ヴィダディが努力する原動力は、家族から褒められたり尊敬されたりすることらしい。
「それに私は父上に憧れているからな」
「陛下は凄い方だよな。なんかオーラとかカリスマ性とかすげぇなって思う」
「うん。それに父上は色んなことをそつなくこなすし。そもそもこの帝国を長い間治めているってだけで凄いことだから」
帝国は大きな国である。属国も沢山あり、それだけ力がある。
その国のトップを長い間勤めているというだけでも凄まじいことなのだ。
「本当にヴィダディは家族が大好きだよなぁ。家族と居る時の姿を氷の皇子とか言っている連中に見せてやりたい。面白そう」
「無理」
「嫌ならいいや。陛下も公の場と私的な場で変わるのか?」
「いや、父上は何処でも父上のままだ。周りの状況とか、周りが誰が居るとか父上には関係ないし。母上は違うけど」
「そうなのか? 皇妃様って前に挨拶した時もパーティーの時と違ってにこにこしていてヴィダディを大切に思っているお母さんって感じだったけれど、それとも違うのか?」
「まぁ、母上は父上が居る時はいつもはしゃいでいるから……」
皇帝が居る時にははしゃいでいるなどと言われてもジャダッドには分からなかった。
「陛下も皇妃様に甘いし、ヴィダディも好きな子が出来たら甘々になりそうだよなぁ。あ、でも国として誰と結婚するかとか決められているのか?」
「全然。寧ろ母上が私の好きな相手を選んで欲しいって言ってるから、自分で選ぶことになると思う」
「へぇ、皇室で自由恋愛って結構珍しいよな。というか、陛下が決めるんじゃないのか?」
「決定権は父上だけど、父上は母上の願いは大体叶えるから私は自分で選ぶことになると思う」
そう、一番権力を持つのは皇帝であるヴィツィオであるが、そのヴィツィオは皇妃であるマドロールの望みを叶えようとするので結局そうなる。
しかしヴィダディは今の所、恋の一つもしたことがないし、まだ十三歳なので誰と結婚することになるかは分からない。
「ふぅん。じゃあ、出会いの場を求めて遊びに行くか?」
「どこにだよ」
「前に俺が住んでた国とか。ヴィダディってまだあまり国から出たことないだろ。もっと外に行けば面白い出会いがあるかもしれないぞ」
「……出会いはともかくとして、国の外を見るのはいいかもしれない。父上に言っておく。その時はお前もつれてく」
さて、そんな会話をしたわけだがジャダッドは特に本気にしていなかった。
会話の後、ジャダッドは城内の展示エリアを見せてもらった。この場所はマドロールが気に入ったものをヴィツィオが入手し続けた結果たまったものが飾られている場所だ。中には珍しいものもあるので、ジャダッドは展示エリアを見るのが好きである。
……そしてそれから数週間後、ヴィツィオから許可が出てヴィダディとジャダッドが他国に行くことになる。
他国に行く話は別に書きます




