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捨てられる予定の皇妃ですが、皇帝が前世の推しだと気づいたのでこの状況を楽しみます! 関連話  作者: 池中織奈


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「帝国でその腕を使って、私にドレスを作って欲しいわ」―属国観光編⑨―

 皇帝夫妻の名の元へと、孤児出身の職人は招集されたわけだが……、その商会の店主はその意図をくみ取れない愚かな存在だったらしい。迎えにやってきた皇室付きの騎士たちの元へ、皇妃であるマドロールが望んだ職人以外を連れてきたのだ。



 そのお店で人気の職人として衣装を並べている職人の方を城へと連れて行こうとしていた。



 ただ皇室の騎士たちはとても優秀である。

 ヴィツィオは無能な騎士など許さない。帝国ではその実力に見合わない地位を持つ者はすぐに剥奪される。優秀な騎士たちは皇妃の求めている職人がその者ではないことは分かったので、店主を問いただし、その職人を連れ出した。



 本当はその店主も含めて城へと向かう予定であったが、こちらを騙そうとしたわけなのでその該当する職人のみを連れていくことになった。



 ――その孤児出身の職人、ラッヘメナは意味が分からなかった。



 今年十四歳になったばかりの彼女には、親が居ない。なんとか商会で働くという幸運をつかめたが、孤児出身であるラッヘメナへの周りの態度は厳しいものだった。それでもこの商会で働けるだけで幸運だと思い、一心に働いていたわけである。もちろん、貴族などと接したこともなく……、教養もそこまでないため皇帝夫妻というのがどれだけえらいのかも理解していない。

 ただ偉い人の元へと向かわなければならないということで、彼女は大変青ざめていた。




 皇室の騎士たちは彼女を説得した上で、まずは身なりを整えさせた。流石に皇帝夫妻の前に平民としての服装のまま行かせるわけにはいかない。




「……こ、こんな良い服いいのですか?」

「皇帝陛下と皇妃様の前に行くには必要なことです」



 ラッヘメナにとっては着たこともないような高価な服を与えられ、恐縮している。しかしこれも必要なことだと言われ、そのままお城へと連れていかれる。




「これから貴方がお会いする方は、この大陸で最も高貴な方がただ。皇妃様はお優しい方なので問題はないと思うが気を付けるように」

「は、はい」



 この大陸で最も高貴な方――というのは誇張でも何でもない。

 帝国は多くの属国を持つ大国である。そしてこの大陸で、その帝国以上に力を持つ国はない。その国の一番上に降臨しているのが『暴君皇帝』とその妻である。



 ラッヘメナには偉い人の区別はつかない。しかし、最も高貴などと言われて萎縮していた。

 ただこのまま会わないという選択肢は出来ないので、ラッヘメナは青ざめたまま皇帝夫妻に謁見した。



「貴方がこのドレスを作った方ですわね。とても良い腕ですわ」




 皇妃――マドロールはラッヘメナが挨拶をすると、嬉しそうに笑いながらそう言った。それとは対称的に皇帝――ヴィツィオは冷たいまなざしのままだ。

 ラッヘメナは突然、高貴な存在に褒められてあたふたしている。




「あ、ありがとうございます」



 ラッヘメナがなんとか絞り出すように声をあげれば、マドロールはまた優しく笑った。



 それからラッヘメナはマドロールと沢山話をした。基本的にヴィツィオは口を開かなかったが、マドロールが楽しそうなので満足そうである。

 ラッヘメナの仕事の話では、孤児出身だからとラッヘメナが自覚している以上に差別され、搾取されていることがマドロールには分かった。




「帝国でその腕を使って、私にドレスを作って欲しいわ」



 マドロールがそんな風に言ったのは、ラッヘメナの腕を気に入ったからだ。



 まだ十四歳でありながらこれだけの腕を持つのだから、もっとその腕は磨きあがることだろう。ラッヘメナの作ったドレスを着たいと思ったのだ。




 ラッヘメナはその申し出に萎縮したままだった。

 そして恐る恐る言ったのは、自分の作ったものを気に入ってくれたことが嬉しいこと。だけれども孤児院の子たちのことを放っておくことが出来ないと言うことだった。



 ラッヘメナが出身の孤児院は、決して良いものではなかった。

 孤児院を経営している貴族が横暴で、横領なども行われている。なんとかその孤児院出身の者たちが援助をして成り立っているが、時折見に行くと環境が悪くなっていたりする。



「皇妃様の申し出は嬉しいです。でも……私は孤児院を放っておけないです」



 他国に行ってしまった後に、自分の育った孤児院に、そこで暮らす幼い子供たちに何かあったら嫌だと思っているのだ。

 高貴な存在の申し出を断ることは破滅につながることもある。だけれどラッヘメナは放っておけないと思ったから、そんな風に断ってしまった。


 それでもマドロールは笑っていた。



「陛下」

「ああ」



 ……マドロールがヴィツィオに呼びかければ、ただヴィツィオは頷いた。

 それだけで二人は通じ合っているらしい。



「ラッヘメナ。貴方が帝国に来て私のためにドレスを作ってくれると言うのならば、その孤児院の子供たちも――貴方が望む人たち全員の帝国への移住を許可します」

「え」

「貴方はとても素晴らしい職人だわ。それに見合ったものをちゃんと与えられるべきよ。だから遠慮しなくていいわ」



 マドロールがそんな提案をラッヘメナにしている傍で、ヴィツィオは特に何も言わずに聞いている。



(……本当にそんなうまい話があるの? 偉い人は騙そうとしたりするって聞いたこともあるけれど。でも……この人は嘘を言っているようには見えない)



 ラッヘメナはマドロールからの提案に葛藤していた。しかしここで保留にしたら次の機会はないかもしれないというのも分かっていた。



 だから、


「その申し出、お受けします!」



 どうなるかは分からないけれど、ラッヘメナはマドロールの提案に頷くのだった。



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