「俺の全てを受け入れる、幸せそうな視線だ」―属国観光編⑦―
「わぁ、とっても綺麗な庭園ですね。ヴィー様! このお花、キラキラしていてとても綺麗!!」
マドロールとヴィツィオは、属国の城内を散歩している。
マドロールが目を輝かせて見ているものは、黄色の花である。その花は宝石と間違えそうなほどに輝きを発していた。実際にアクセサリーとして使われることもあるようなもので、この国の特産品でもある。
ヴィツィオはマドロールが嬉しそうに見ているその花を、帝国に持ち帰ることを心の中で勝手に決めた。
「そうか」
「はい。なんだかヴィー様の綺麗な瞳を連想させるっていうか、なんだか惹かれます」
マドロールの頭の中はいつでもどこでもヴィツィオのことばかりなので、その花を見てその瞳を連想したらしい。
そしてマドロールはじっと、ヴィツィオを見る。
「ヴィー様の黄色い瞳って、本当にキラキラしていて宝石みたいですよね」
「マドロールの瞳も宝石みたいだ」
「ふふ、ありがとうございます! ヴィー様のその目が、私のことをなんというか好きだって見つめてくれるの凄くドキドキするんです。もちろん、ヴィー様が冷たい瞳を向けていても凄くかっこいいんですけど! なんていうかヴィー様に見つめられると、私もヴィー様以外見つめられないみたいな、そんな感じです」
マドロールはそんなことを言いながら、嬉しそうにヴィツィオだけを見つめている。
「マドロールの視線も、逸らせない」
「そうですか?」
「ああ。俺の全てを受け入れる、幸せそうな視線だ」
そんなことを言われたマドロールは、ときめいていた。
「かっこよすぎます! ヴィー様、そんなこと言われたら本当にときめきますからね! ヴィー様、本当に大好きです!」
「ああ」
きゃーきゃー騒ぎ出したマドロールの口は、ヴィツィオにふさがれた。
……属国とはいえ他国に来ているわけだが、帝国と変わらない調子で二人は仲睦まじい様子を見せていた。
帝国から護衛としてついてきている騎士たちはまたいちゃいちゃしているなと慣れた様子だ。
そんな風に楽しく過ごしている中で、その場に割って入ろうとする存在がいる。
「皇帝陛下がこちらにいらっしゃると聞いたのですが……」
そう言ってやってきたのは、この国の王女たちである。彼女たちはパーティーで相手にされなかったのにも関わらず、ヴィツィオの見た目と地位に惹かれて近づこうとしていた。
そして声をかけた先で、ヴィツィオとマドロールが口づけを交わしていたので驚いた顔をする。
マドロールもヴィツィオと口づけしていたのを王女たちに見られて恥ずかしそうだ。
そんなマドロールをヴィツィオは抱きしめている。
「ヴィー様、お姫様たちいますから離れましょ」
「気にしなくていい」
「もー、ヴィー様、流石にじっと見られている中くっついているのは恥ずかしいですよ」
マドロールはヴィツィオに抱きしめられたままそんなことを言う。
そんなマドロールをヴィツィオは愛おしそうに見て、そのまま離す気はなさそうだ。というか、王女たちが来ているのに本当にどうでもよさそうである。
「皇帝陛下、あの――」
「マドロール、さっき言った花以外に気に入ったものはあったか?」
「皇帝陛下、わたくしたちと――」
「えっと、ヴィー様、話しかけてきてますよ」
ヴィツィオは、王女たちの言葉を全無視していた。見かねてマドロールがヴィツィオに言う。
「邪魔だ。失せろ」
ヴィツィオが王女たちに言った言葉はそれだけである。
冷たく言い放ったヴィツィオに、愚かにも王女たちは食い下がる。
「その方よりも、わたくしたちの方が――」
「あぁ?」
マドロールよりも自分たちの方が良いなどと口にしようとした瞬間、不機嫌そうなヴィツィオに殺気を向けられる。
それだけでがくがくと身体を震わせて言葉を発せなくなっている。
「おい、そいつら連れてけ。帝国の皇妃に対する侮蔑罪で適当に罰を与えておけ」
そして不機嫌そうなヴィツィオは、騎士たちに命令する。騎士たちの手によって王女たちは連れていかれた。
「ヴィー様、あんまりひどいことはしないでくださいね」
「マドロールが気にするような罰はしない」
「ヴィー様が私のことを大切にしてくれてるのは嬉しいですけど、ヴィー様が周りからよく思われなくなるのは嫌ですもん。今回はちょっと夢見ちゃっただけだと思いますし。小国の姫である私がヴィー様の皇妃だから、自分だってと思ったんだと思います」
「あいつらがマドロールに成り代われるわけがないだろ。それより、この国で気に入ったものは他に何がある?」
「そうですねぇ」
それからマドロールがヴィツィオにこの国で気に入ったものをいくつか挙げていく。
それらは当然のように後日、帝国でそろえられるのであった。




